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上野駅から朝倉彫塑館へ。朝倉文夫作品を訪ね歩く
代表作の《墓守》をはじめ、早稲田大学の《大隈重信像》などでも知られる彫刻家、朝倉文夫。猫を愛し、谷中で創作活動を続けた彼の作品は、上野の街に欠かすことができない。上野周辺で見ることのできる朝倉作品を紹介しよう。
上野で見つける朝倉文夫作品
日本を代表する彫刻家、朝倉文夫。東京美術学校(現在の東京藝術大学)に在学し、学生時代は上野動物園でスケッチをするなど、上野とも縁のある彼の作品は街に欠かすことのできない存在だ。そんな朝倉作品を探して、上野駅から歩いてみた。
JR上野駅を降りて最初に出会うのは、中央改札そば、16番線近くの構内にある《三相》。3人の若い女性で「智情意」を表現したこの作品は、朝倉の代表作のひとつだ。上野駅開設が朝倉の生年と同じ1883年であることから駅に寄贈された。中央改札を抜けると、待ち合わせ場所としても有名な《翼》が見える。気品あふれる女性が両手を広げる作品は、1958年の設置以来、駅を見つめ続けてきたシンボルだ。
さらに上野公園に足をのばせば、旧東京音楽学校奏楽堂の《瀧廉太郎像》があり、駅の東側、台東区役所1階「台東アートギャラリー」でも朝倉作品を展示している。
街に点在する作品に加えてぜひ訪れたいのが、朝倉が谷中に構えた住居兼アトリエだ。場所は徒歩で日暮里駅から5分、上野駅からは25分ほど。壁面が黒く塗られた外観が印象的な朝倉彫塑館は、彼の美意識が隅々まで行き渡り、「作品」と呼ぶにふさわしい。
敷地面積約400坪の同館は、アトリエ棟と朝倉が暮らした住居棟からなる。天井高8.5メートル、鉄筋コンクリート造のアトリエには、代表作の《墓守》をはじめ、高さ約3.7メートルの《小村寿太郎像》などの彫刻作品が並び、柔らかなアールのついた窓から差し込む光が時間によって作品の表情を変えていく。
アトリエの隣は壁一面が書架となった書斎。朝倉の恩師でもある美術評論家、岩村透の没後、彼の蔵書が散逸しないように朝倉が引き受けたという洋書が展示されている。
交流のあった書家、呉昌碩による書が飾られている応接室を抜け、廊下を進むと、私的空間が広がる。中庭に面して居間、茶室、寝室が並んでいる。2階には朝倉の趣味の部屋だったという「素心の間(そしんのま)」、3階には来客をもてなしたという「朝陽の間(ちょうようのま)」がある。素朴で凜とした雰囲気の「素心の間」と、贅沢な造りの「朝陽の間」のコントラストが美しい。上階からも中央の庭園が見える造りになっているのがよくわかる。
建物から感じる朝倉文夫の息づかい
コンクリート造のアトリエ棟と木造の住居棟からなる朝倉彫塑館。一見すると全く異なる印象を受けるものが美しく調和する。その調和について主任研究員の戸張泰子さんは次のように語る。
「朝倉は、合理的な人だったと思います。それを象徴するのがアトリエ。本来は好むところではないコンクリートも、目的のためには躊躇なく取り入れています。ただ、そこには必ず朝倉の哲学や美意識が感じられます。用のなかに美を表現するんです。例えば、温かみのある色や素材を壁材に用いたり、丸太を思い切って半分に切って窓のアクセントにしたり。朝倉流の調和ですね。そうした試みは建物の随所に見られ、その手法を『アサクリック』と呼んでいます。異なるように見える空間が破綻することなく、溶け合って見えるのは、朝倉の美意識が通底していることが理由ではないでしょうか。仕事で私はここで多くの時間を過ごしていますが、今でもなお、いくつもの発見がある魅力的な空間です」
コンクリート造と木造で構成された建物全体はもちろん、階段、手すりなどの細部も、いたるところに一貫した美意識が感じられる朝倉彫塑館。ぜひ上野駅から朝倉彫塑館まで散策しながら、その作品と思想に触れてほしい。
文/奥田高大 撮影/三吉史高
- 朝倉彫塑館
開館時間:9:30~16:30 (入館は16:00まで)
休館日:月・木曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、年末年始、展示替え期間等
入館料:一般500円(300円)、小・中・高校生250円(150円)
※( )内は20人以上の団体料金
※入館の際は靴下を着用。スリッパやルームシューズは使用不可
※雨天・荒天時は屋上閉鎖
http://www.taitocity.net/zaidan/asakura/※この記事は2020年2月現在のものです(2020年4月現在臨時休館中のため、今後の予定についてはWEBサイトをご確認ください)。