東京都美術館「子どもへのまなざし」展 ギャラリートーク 作家にまつわるエピソードが盛りだくさん! 担当学芸員だからわかる作品の魅力と楽しみ方

東京都美術館「子どもへのまなざし」展 ギャラリートーク
作家にまつわるエピソードが盛りだくさん!
担当学芸員だからわかる作品の魅力と楽しみ方

東京都美術館で開催された展覧会「上野アーティストプロジェクト2019『子どもへのまなざし』」では、作品への理解を深めるためのイベントも開催された。その一つは12月20日に行われた担当学芸員によるギャラリートークだ。午後と夜の2回設けられたトークのうち、夜の部の様子を紹介する。

東京都美術館学芸員の田中宏子さん。

ゆったりと、コンパクトに。作品の世界にひたる至福のひととき

ギャラリートークは約30分で会場を回り、学芸員の話を聞きながら、作品を鑑賞していく。案内してくれたのは、この展示の企画構成を担当した田中宏子さん。「第1章 愛される存在」「第2章 成長と葛藤」「第3章 生命のつながり」をめぐる時間は各章10分と短いが、特徴的な技法、作品誕生の背景、作家のキャラクターの3点が、ゆったりとした流れの中で端的にまとめられていた。

「第1章」では、作家の新生加奈さんが日本画出身であることを教えてもらった。幸せそうに微笑む少女をやわらかなタッチで描いた作品には、岩絵具や金箔、銀箔などが使われているという。迫力ある母子像を描く大久保綾子さんが小柄な女性であること、孫が生まれたことを機に手のドローイング作品が生まれたことも、ギャラリートークに参加したからこそ知ることのできたエピソードだ。

「第2章」に展示されている志田翼さんは、高校の美術の先生。そう聞くと、描かれた少年少女の姿から、今の時代を生きる10代が隠し持つ心情がリアルに迫ってくる。豊澤めぐみさんが描く女子高生像の作品解説で、田中さんは「思春期を思い出し、共感することも多い」と自身の感想を重ねた。美術のプロである学芸員が自分と似た感想を抱いていることを知ると、作品との距離が縮まったような気がしてくる。

ギャラリートークの様子。

プロの解説が加わると面白さが増す 自由な鑑賞の世界

「第3章」では、山本靖久さんの作品に欠かせない「自然と人間が共生した世界」というキーワードを教えてもらった。その言葉を念頭に見直すと、モチーフの意味が以前より深く伝わってくる。木原正徳さんの作品は、透明感のある鮮やかな色彩が美しい。ところが、かつては暗い色調の絵が多かった。子どもが生まれ、身の回りに玩具などの明るい色彩が増えたことから、作風が変わったそうだ。子どもがいかに人生に大きな影響を与える存在なのかと胸が温かくなってくる。

今回のギャラリートークで田中さんは、午後と夜の回では、話す内容を半分以上変えていた。「面白く鑑賞してもらいたい」という一心からだ。

「作品は自由に観ていただければいいと思っています。でも、作家さんにまつわるキーワードを一つでも知ると、作品がより面白く鑑賞できるようになるんです。ギャラリートークがそのきっかけ作りになれば」と田中さんは話す。

その言葉通り、ギャラリートークが終わってみると、作家のパーソナルな面を想像しやすくなり、鑑賞の記憶が深まった。将来、この作家たちの作品を目にする機会があれば、旧知の友人に再会するような気持ちになるだろう。学芸員の言葉に助けられて絵画を観るのがこんなに面白いとは。そんな新しい発見も得た夜だった。



文・撮影/角田奈穂子(フィルモアイースト)

上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」

会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
※この展覧会は終了しました。

Other Article