子どもの本の図書館が案内する、アートの魅力

子どもの本の図書館が案内する、アートの魅力

上野にある国立の児童書専門図書館には、子どもの本の魅力を広く発信するためのミュージアムがある。子どもの本の展示会を通じて、アートや世界の国々につながる扉が開いていく。国立国会図書館子ども図書館の寺倉憲一館長が、子どもの本のミュージアムの役割と、2019年10月から2020年1月にかけて開催された展示会「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」について語ってくれた。

国際子ども図書館長の寺倉憲一さん。

上野には、日本を代表する美術館や博物館が集まっているけれど、図書館にまでミュージアムがあることを知らなかった人もいるのではないだろうか。なぜこんな施設があるのか、館長の寺倉さんに尋ねてみた。

「子どもの本の持つ魅力を多くの方達に分かりやすく伝えるために、子どもの本の展示を行うことは大切です。国際子ども図書館が開館時にモデルの一つとしたミュンヘンの国際児童図書館も、作家のミヒャエル・エンデの作品などを紹介するミュージアムを設けています。私たちも、子どもの本のミュージアムとしての役割を重視し、開館以来、さまざまなテーマの展示会を開催してきました。」

展示会が開催される「本のミュージアム」は、旧帝国図書館の建物(レンガ棟)の3階にあり、帝国図書館時代には普通閲覧室として使われていた。高さが約10メートルもある天井には、開館時の丁寧な修復により、帝国図書館時代の漆喰装飾が再現されている。広い室内には、木製の巨大な円形展示塔が2つも設置され、その周囲に組み込まれた展示ケースに児童書が並べられる。施設だけでも一見の価値があるといえるだろう。

レンガ棟3階「本のミュージアム」。年に4本程度の展示会をここで開催する。天井の高い空間からは、歴史的建造物としての建物の魅力が伝わってくる。

国際子ども図書館ではこれまで、外国の児童書を国や地域ごとに展示したり、国内外の児童文学賞を受賞した作品を手に取ってみられるようにしたり、さまざまな切り口から展示会を行ってきた。世界各地で優れた絵本が数多く出版された1920~1930年代の「絵本の黄金時代」をふりかえったり、外国で翻訳出版された日本の児童書のゆくえをたどるものなど、過去の展示会にはユニークな企画が多い。展示会「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」(2019年10月1日〜2020年1月19日)も、NHKの「日曜美術館」で取り上げられるなど話題となった。

昨年の展示会「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」では、世界で出版された300以上もの作品を紹介した。*

もともと柔らかく親しみやすい作風をもつ美術家が絵本を作ることはそう珍しくないが、この展示ではダリのようなシュルレアリスムの画家や、草間彌生、大竹伸朗、岡﨑乾二郎などのいわば「とがった」前衛的なアーティストの絵本も多数展示された。この展示会が、これまでこの図書館とは縁がなかったアート系の人々の注目を集めたのもうなずける。

「近年は特に、アーティストの参入もあって、絵本の表現の幅が広がり、ユニークな作品が増えているんです。それがまた若いアーティストが絵本という媒体に関心を持つきっかけになる。美術作品と絵本の間の垣根がどんどん低くなっているように感じます」と、館長の寺倉さんは言う。

『ジャリおじさん』(おおたけしんろう 絵・文/福音館書店 1994)*
『不思議の国のアリス : With artwork by 草間彌生』(ルイス・キャロル作、楠本君恵 訳、草間彌生 挿画/グラフィック社 2013)*
『ぽぱーぺぽぴぱっぷ』(おかざきけんじろう 絵、谷川俊太郎 文/クレヨンハウス 2004)*
『6つの構成による2つの正方形についてのシュプレマティスムのお話』(エル・リシツキー 絵/Skify 1922)
『海と灯台の本』(ウラジーミル・マヤコフスキー文、ボリス・ポクロフスキー 絵、松谷さやか 訳/新教出版社 2010)

「理性の枠を取り外し、無意識や狂気を表現したいアーティストは、絵本という形態を美術表現のひとつとして意識的に選んでいるんです。つまり、絵本がもたらす『自由』に気づいている。アーティストたちが見出した子どもの本の可能性の広さを、私たちも発信していきたいと思っています」

上野には国立西洋美術館、東京都美術館や東京藝術大学など、アートの殿堂ともいえる文化施設が集結している。おそらく展示会「絵本に見るアートの100年」は、ふだんはそのあたりに出没している人が国際子ども図書館に立ち寄る機会にもなっただろう。

「その逆に、東京都美術館で子どもをテーマにした展示が行われた時は、当館の職員が東京都美術館で子どもたちのために関連する本の読み聞かせイベントを行いました。上野だからこそできるコラボレーションですね」

国際子ども図書館には天井の高いホールがあり、演奏会などの音楽イベントも行われる。東京文化会館などとの共同イベントをこれから増やしていければ、と寺倉さんは先を楽しみにしている。

「子どもたちだと反応がストレートに来ますから、観客とのインタラクティブなイベントを好まれる音楽家の方にとっては、ここは面白い場所ではないでしょうか」

展示会が開かれる本のミュージアムやホールなど、国際子ども図書館の魅力が詰まったレンガ棟。明治期を代表するルネッサンス様式の建築と平成の改修時に張りめぐらされたガラスが、見事に調和している。

小さい子どもなら、上野動物園で半日遊び、午後は図書館で気になった動物の本や図鑑をこころゆくまで眺めるという楽しみ方もできるだろう。科学博物館で展示を見た帰りに、もっと知りたくなったことを「調べものの部屋」で調べることもできる。国際子ども図書館を組み込んだ上野めぐりは、アート畑の人、音楽畑の人、科学畑の人、動物好きの人にも楽しいはずだ。

「いずれは上野に集うパフォーミング・アーツの人とも、国際子ども図書館と何か一緒にできるのではないか、とも思っているんです。子どもたちは参加型のイベントが大好きですし」。国際子ども図書館が軸足になることで、上野の楽しみ方はますます広がっていく。



文/江口絵理 撮影/三吉史高 写真提供/国立国会図書館国際子ども図書館(*のみ)

国立国会図書館国際子ども図書館

住所:東京都台東区上野公園12-49
開館時間:9:30〜17:00
休館日:月曜日、第3水曜日(資料整理休館日)、国民の祝日・休日(5月5日のこどもの日は開館)、年末年始
URL:https://www.kodomo.go.jp

※この記事は2020年2月現在のものです。

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