日本を代表する彫刻家、朝倉文夫の庭園で感じる四季の移ろい

日本を代表する彫刻家、朝倉文夫の庭園で感じる四季の移ろい

春の桜に代表されるように、四季の移り変わりを感じることも上野の楽しみのひとつ。日本の近代彫刻界を牽引し、初めて文化勲章を受章した彫刻家、朝倉文夫の住居兼アトリエにある庭園が見せる四季もまた美しい。早春の朝倉彫塑館を訪ねた。

国の名勝に指定されている美術館

日暮里駅からゆっくり歩くこと5分。日本を代表する彫刻家、朝倉文夫の作品と彼が追い求めた美が凝縮されているのが、住宅とアトリエだった建物を美術館として公開している朝倉彫塑館。ここは、敷地全体が「旧朝倉文夫氏庭園」として国の名勝に指定されている。

名勝としての見どころはふたつの庭園だ。

ひとつは、アトリエと住居に四方を囲まれた中庭。朝倉の考案をもとに造園家、西川佐太郎が完成させた南北約10メートル、東西約14メートルの庭園は、日本各地から取り寄せた石と、美しく手入れされた樹木、豊かな水による濃密な空間。春はヒメウツギやシャリンバイ、夏にはサルスベリやムクゲ、秋にはモミジ、冬はウメやサザンカなどを、朝倉の美に対する思想や哲学が体現された建築と一緒に楽しめる。

同じ庭であっても、1階の部屋や廊下から見える景色と、2階、3階からの印象は異なり、見る角度や季節によって、さまざまな表情を見せてくれる。朝倉はこの美しい庭の縁側で五感を研ぎ澄ませながら、創作のアイデアに考えをめぐらせていたのかもしれない。

中庭はアトリエ棟からも住居棟からも眺められる。
住居棟天王寺側。玄関と門を結ぶ石畳。

もうひとつは、鉄筋コンクリート造のアトリエ棟にある屋上庭園。屋上緑化の先駆けとしても有名なこの庭園は、かつて朝倉が主宰していた専門学校「朝倉彫塑塾」の園芸実習の場として利用されていた。「植物を育てることは自然を見る目を養うことに通じる」という朝倉の考えが形になっている場所とも言える。ここではオリーブの大木をはじめ、四季咲きのバラなどの植物を楽しむことができる。

彫刻作品と植物が融合する屋上庭園

屋上庭園ではさまざまな植物とあわせて、ふたつの朝倉作品と眺望も堪能したい。屋上庭園の先端に設置されているのは《砲丸》。帽子を後ろ向きにかぶった砲丸投げ競技の選手と思しき青年が腰掛け、左手で砲丸の球を押さえている。朝倉が愛した谷中の街を見守るかのような姿が印象的だ。

もうひとつの作品、《ウォーナー博士像》はセメント像だ。空に向かって一直線に伸びるスカイツリーも見え、彫刻と庭園、建物に東京の景色が融合する。

1935年に朝倉が創りあげたこだわりの中庭と、先駆的な屋上庭園。このふたつの庭園と建築が融合する朝倉彫塑館もまた、朝倉作品と呼ぶにふさわしい。

屋上と「蘭の間」を結ぶ階段。屋上は雨の日は非公開。天気の良い日にぜひ訪れたい。
谷中の街並みを一望できる屋上庭園。中央奥の《砲丸》が街を見守るかのように設置されている。
《ウォーナー博士像》。内側壁面は当時、流行だったというスクラッチタイルが用いられている。
アトリエ棟の壁面。黒い壁面をよく見ると、コンクリートを流し込むときにできた板目が残っている。左上に見えるのが屋上庭園の《砲丸》。
アトリエ棟2階の「蘭の間」は、かつて朝倉が東洋蘭を育てていた温室だった。

文/奥田高大 撮影/三吉史高

朝倉彫塑館

開館時間:9:30~16:30 (入館は16:00まで)
休館日:月・木曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、年末年始、展示替え期間等
入館料:一般500円(300円)、小・中・高校生250円(150円)
※( )内は20人以上の団体料金
※入館の際は靴下を着用。スリッパやルームシューズは使用不可
※雨天・荒天時は屋上閉鎖
http://www.taitocity.net/zaidan/asakura/

※この記事は2020年2月現在のものです(2020年4月現在臨時休館中のため、今後の予定についてはWEBサイトをご確認ください)。

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