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歴史ある建築に宿る、オープンでやわらかな児童書の世界
上野に子どもと行くとなると、まず思い浮かぶのは上野動物園? あるいは国立科学博物館の昆虫展や恐竜展だろうか? 実はそれらの施設のほんの少し先に、素敵な洋風建築の図書館がある。国立国会図書館国際子ども図書館だ。子どもの本を集めた専門図書館だが、子どもも大人も誰でも入館・利用可能。館長の寺倉憲一さんにこの図書館の魅力を聞いた。
JR上野駅から東京国立博物館の前を通り過ぎたところで右に折れると、どっしりとした洋風建築が現れる。ここは国際子ども図書館。海外からの観光客と思しき2人が、建物がまとう歴史に吸い込まれるように中へと入っていった。
「国際子ども図書館は、児童書専門の図書館です。専門図書館には研究者や登録者のみ入館できるというイメージがあるかもしれませんが、ここはどなたにも開かれています」
館長の寺倉さんは、子どもでも大人でも、日本の方も海外からの方も気軽に立ち寄ってもらえたら、と微笑む。
「建築に惹かれて入っていらした方は『こんな図書館があったとは』と驚かれるようです。最初に建てられたのが明治39(1906)年ですから、100年以上の歴史があるんですよ」
入ってすぐの吹き抜けには、繊細な意匠の階段が3階まで続く。いかにも“インスタ映え”しそうなアンティークな空間だが喧騒はなく、図書館という場所柄からか、訪れた人々はみな歴史的建造物特有の静けさを楽しんでいるようだ。
もともとこの図書館は「帝国図書館」として建てられ、第二次大戦後は国立国会図書館の支部として機能してきたが、2000年に児童書のナショナル・センターとして生まれ変わった。国内外の児童書のほか児童書に関する資料を広く集めて保存し、調査研究を行っている。
「これまでにおよそ160の国と地域から海外の児童書を集めています。子どもの本は大人の本よりもやすやすと文化の壁や国の違いを越えていく存在ですし、子どもたちに、自国以外の文化にも触れながら国際感覚を自然に身につけてほしいという思いから立ち上げられたのがこの図書館なのです」
国際子ども図書館は近くに住んでいる子どものためだけのものではない。研究者はもちろん、公共図書館・学校図書館司書の利用も多い。国立の図書館として、日本中の図書館や学校を支援することで全国の子どもたちの読書を支えようとしている。
「海外をルーツにもつ子どもたちが増えていますが、公共図書館がそうしたお子さんのために海外の児童書の蔵書を充実させたいと思っても、何を選べばいいかわからないということもあるでしょう。そのような時に、司書の方に当館の蔵書を参考に検討してもらえたらと思っています」
国際子ども図書館レンガ棟の2階には「調べもののへや」がある。中高生の調べものに適した書籍を集めた資料室だ。それこそ国立の図書館なのだから巨大な資料室でもおかしくないが、この部屋は適度にこぢんまりとしていて、本格的な調べものに慣れていない中高生でも使いやすい。しかも選書の眼がすみずみまで行き届き、埃をかぶった古い事典が並んでいるだけの資料室とはずいぶん違う。
「いまはインターネットでなんでも調べられるような気がしてしまいますが、正誤や新旧の知識が錯綜してしまって信頼できる答えになかなかたどりつけないことも多いですよね。でも図書館で調べると、知りたいことが意外に早くわかったりする。そんな“調べものの楽しさ”を中高生に体感してもらえるプログラムをこの部屋で行っています。読書の楽しさだけでなく、子どもたちの情報リテラシーの向上にもつなげたいですね。この部屋に並べられた資料は、全国の学校図書館の資料揃えのモデルにもしていただけると思います」
レンガ棟1階には小学生までの子どものための小さな図書室があり、訪れた親子が小さな椅子で絵本を読んでいる。この敷居の低さも魅力のひとつだ。子ども連れでなくても、上野散策の合間にほっと一息つくにはいい場所かもしれない。
「カフェや中庭もありますし、子どもの本のミュージアムもありますしね。明治期から現在までの日本の児童書がずらりと並んでいて、大人だけで来ていただいても楽しめると思います。自分が子どものころに読んだ本にきっと出会えますよ」
子どもの本の魅力と歴史ある洋風建築がともに楽しめる図書館は、上野の賑わいのかたわらで静かにたたずみ、来る人をやわらかく受け入れている。
文/江口絵理 撮影/三吉史高 写真提供/国立国会図書館国際子ども図書館(*のみ)
- 国立国会図書館国際子ども図書館
住所:東京都台東区上野公園12-49
開館時間:9:30〜17:00
休館日:月曜日、第3水曜日(資料整理休館日)、国民の祝日・休日(5月5日のこどもの日は開館)、年末年始
URL:https://www.kodomo.go.jp※この記事は2020年2月現在のものです。