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見つけて、暮らしに取り入れて。
「藝大アートプラザ」で出合う自分だけのアート
博物館や美術館が集まる上野では、数多くの芸術作品に触れることができる。一方で、ただ鑑賞するだけではなく、もっと身近にアートを楽しめるスポットがある。東京藝術大学のなかにある小さなショップが、敷居が高いと思っていた「アート」との距離をぐっと近づけてくれるかもしれない。
活躍中の作家から現役藝大生の作品まで、どれでも「買えます」
アートと聞くと、ちょっと身構えてしまったり、縁のないものと考えてしまいがち。でも、自分へのたまのご褒美にスイーツや小さなアクセサリーを買うように、触れたり、買ったりできる場所があれば、アートはもっと身近なものになるかもしれない。
2018年10月、東京藝術大学の正木門、通称、黒門の先にリニューアルオープンした「藝大アートプラザ」は、まさにそんな場所だ。東京藝大と小学館が共同運営する同店には、現役藝大生から卒業生、教授や講師の先生らの作品に加え、オリジナルグッズなど約1300点が並ぶ。最大の特徴は、店内にあるすべての作品が購入できること。鑑賞するだけでなく、気に入った作品は購入して、自分の暮らしに取り入れるという仕組みは、プロジェクトを立ち上げた小学館の河内真人さんの体験がヒントになっている。
「雑誌の編集をしている頃から藝大の卒展によく足を運んでいたのですが、あるとき、すごく気に入った作品に出会って、譲っていただけた。そのときのうれしかった気持ちや体験が藝大アートプラザ立ち上げのきっかけとなっています」
店内に並ぶのは活躍中の人気作家の新作から、これから実力を世に問おうとしている新進作家、藝大で“修行中”の若者の作品まで、素材も技法もさまざま。ネックレスやリングなどのアクセサリー、「掌絵(てのひらえ)」と名付けられた手のひらサイズのアート、ガラス造形、音楽、絵画、焼き物、鋳物、カトラリー……。さらに飾る場所に悩みそうな個性的な像や、「なぜこれをモチーフに?」と制作の背景を知りたくなるようなものまで実に多彩だ。価格も作家の意向が反映されており、数千円のものから数万円、数十万円と値付けからも作家の個性が感じられて面白い。
テーマにあわせて作品が生まれる!
藝大アートプラザで扱われるのは、大きく企画展の作品と常設展の作品。企画展のテーマはたとえば「Glass Wonderland」(2020年2~3月)や、「花と蕾」(2020年3~4月)。一般的に美術館の企画展ではテーマにあった作品を集めて展示するが、藝大アートプラザではチーフアートディレクターの伊藤久美子さんを中心に、テーマにあった作家に創作を依頼して、展示・販売する。そのため、開催直前に作家から“想像のナナメ上”をいく作品が届くこともあるが、それもまた藝大アートプラザの魅力だという。一方、セレクトした作家の作品が並ぶのが常設展。展示販売の期間はとくに決まっておらず、作品との出合いは一期一会だ。
店内に並ぶ作品を眺めていると、自分の感性や審美眼が試されているような気分にもなるが、それも楽しみのひとつ。ふらりと立ち寄って見ていくだけでも、若手アーティストを応援するような気持ちで手に取るのも、あるいは“未来の価値”を夢見て部屋に飾るのもいい。アートへの深い造詣や、自分の感性を惑わすような先入観は藝大アートプラザには似合わない。個性あふれる作品が静かにぶつかり合い、調和する店内で、作品と出合い、気に入ったものがあれば自分の暮らしに取り入れてみる。藝大アートプラザではそんな自由なアート体験をしてみたい。
文/奥田高大 撮影/平野晋子
- 藝大アートプラザ
住所:東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内
営業時間 10:00~18:00
定休日 月曜 (祝日の場合は営業し、翌火曜日に休業)
https://artplaza.geidai.ac.jp/