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上野のかつての駅舎で見る、スペインのアーティスト作品
上野公園の北西、黒田記念館の向かいの角地にひっそりと建つ、石造りの小さな建物を見たことがあるだろうか? 京成電鉄のかつての駅舎、旧博物館動物園駅だ。現在は開放していないが、アートプロジェクト「UENOYES」の一環で、2019年秋、この駅舎が期間限定のアートスペースとしてオープン。「メタル・サイレンス」をテーマに、スペイン出身の作家2名による作品が展観された。地下に続く空間はまるで異世界。時折、側を走る電車の「ゴーッ」という音が響く中で作品を見る、特別な時間となった。
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折れたブロンズのリンゴの木は、何を象徴するのか?
1997年に営業休止、さらに2004年に廃止されて以来、非公開となっている京成電鉄の「旧博物館動物園駅」。重厚な西洋風のつくりで2018年に「東京都選定歴史的建造物」に選ばれた。その駅舎で現代美術作品のインスタレーションが行われた。
作品を展示したのは二人のスペインのアーティスト。入口近くにある竹と木のオブジェはフェルナンド・サンチェス・カスティーリョの彫刻だ。どちらも本物そっくりだけれど、竹は自然のもので、木はリンゴの木を折って型を取り、ブロンズを流し込んで作っている。
「上野公園は戦時中、避難所にもなったと聞いた。折れた木は人類の悲劇を象徴しているともいえる。リンゴは旧約聖書の創世記でアダムとイヴが楽園から追放されるきっかけになった木であり、ニュートンが万有引力を発見したとされる木でもある」
人為的に折られた木が竹の支柱でかろうじて立っているようにも見える。折られながらも上に向かって伸びていく木に自らの生き方を重ねる人もいるかもしれない。
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空爆の歴史、更新され続ける映像インスタレーション
階段を降りて奥に進むとクリスティーナ・ルカスの映像インスタレーションが設置されていた。三面に分かれたスクリーンには世界各地で空爆によって犠牲になった民間人の数や空爆された場所、記録写真が映し出される。見ていると常にどこかで(しかもたいていは複数の場所で)空爆が起きている印象だ。6時間もある映像は1911年から第二次世界大戦終結の1945年までと、1945年〜1989年の冷戦終結まで、1989年〜2019年現在の3つのパートに分かれている。
「1911年にイタリアがオスマン-トルコを空爆したのが飛行機による初めての空爆です。改めて見てみるとテクノロジーの進化に驚きますね。最近ではドローンによる空爆も行われていて、ビデオゲームのようです。でもその下で市民が犠牲になっていることには変わりありません」
この作品は展示される場所に応じてその国の空爆をより詳細にリサーチしたデータが追加される。今回、上野で展示されるにあたっては東京大空襲や広島・長崎の原爆による被害などがさらに詳しく調査された。そのため、前年公開されたときには5時間だった映像が6時間になっている。
「次にこのプロジェクトが公開される時には、さらに新しいデータが追加される予定です。ですので、この作品はまだ進行中なのです。とても残念なことですが」
世界各地で起きている紛争がなくならない限り、彼女の作品は更新され続けるのだ。
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展覧会タイトルの「メタル・サイレンス」には人を傷つける武器の原料としての金属と、カスティーリョの作品のように沈黙の中にも人間性を感じさせるアートとなる金属などさまざまな意味を込めた、と「UENOYES」国際部門ディレクターの岡部あおみは言う。多くの人が行き交う上野の歴史にも思いを馳せることができるイベントだった。
文/青野尚子 撮影/平野晋子(*を除く)
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- UENOYES 海外アーティスト招聘プログラム
「想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019」 会期:2019年10月18日(金)~11月17日(日)の金土日祝 ※全16日間(10月22日は除く)
時間:10:00~17:00
会場:旧博物館動物園駅 駅舎(東京都台東区上野公園13-23)
WEB:https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2019
※このイベントは終了しました。
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左からクリスティーナ・ルカス氏、岡部あおみ氏、フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ氏。*