映像やグラフィックデザイン、VJ、執筆、キュレーションなど幅広く活躍し、「現在美術家」と自称する現代美術家・宇川直宏さんも「UENOYES(ウエノイエス)」に参加。ライブストリーミングを使ったパフォーマンスアート「DOMMUNE(ドミューン)」を繰り広げ、UENOYESの全プログラムを世界に向けて発信した。宇川さんはUENOYESを通して、上野という街の魅力をどう捉えたのだろう。
「UENOYES」に参加するきっかけはどんなことからだったのでしょう?
宇川直宏(以下、宇川) 「DOMMUNE」はインターネットを使ってリアルタイムに動画を配信するライブストリーミングスタジオ兼チャンネルです。YouTuberとの違いは、彼らにとって配信は広告収入で生計を立てることを企てているので「仕事」を想定していますが、僕たちは現代美術「活動」の一環とし、配信自体を“美術作品”として世界に拡散していることが決定的に違います。
配信を始めた2010年から、国内外のさまざまな場所にサテライトスタジオを開設し、これまで約5000番組を制作してきました。そんな中、2019年は、瀬戸内国際芸術祭の作家として高松市のビル一棟を丸ごとスタジオにフルリノベーションし、1カ月連続配信していたところ、「UENOYES」のお誘いを受けたのです。
宇川さんは、上野をどんな場所と捉えていらっしゃいますか?
宇川 複数の新幹線が乗り入れ、山手エリアと下町エリアの同居する特別な地域環境。そんな中、いわゆる、大文字の美術館や博物館が存在感を打ち出している文化圏。ゆえに「アートの街」と呼ばれることもありますが、芸術に対する敷居は決して高くない。むしろ、大衆に向けて芸術の間口を広げている街だと思います。なので僕らのような現代アート表現がどう受け入れられていたのか、大変興味深いです。
UENOYES 2019で日比野克彦さんが監修した段ボールオブジェは、まさに上野のアート精神を反映していますよね。専門の美術教育を受けていなくても、誰もが参加でき、独自性を発揮して表現が奔放にほとばしっている。段ボールオブジェが短時間のうちに会場を埋めていったように、その創作物には街全体を一気に変えるパワーがある。そんな親しみやすいアートへの入り口を上野が広げているのは、歴史の上に成り立つ美術の文脈があるからでしょう。六本木や渋谷とも全然違う文化圏ですよね。
今回のテーマ「FLOATING NOMAD」は作品にどんな影響を与えましたか?
宇川 僕らも作品としてサテライトスタジオを開設したわけですが、先ほど説明した場所性だからこそ、まずはスタジオに訪れるオーディエンスのタイプが決定的に違いましたね。国立科学博物館の「ミイラ ~『永遠の命』を求めて」を鑑賞し多種多様な死生観を浴びたあと、DOMMUNEに偶然導かれ、シルクロードについてのディープな考察に触れてさらに頭が“クラクラ”したおじさまや、上野動物園で2歳になったパンダのシャンシャンに魅了され、そのあと、お母さんと一緒に迷い込んだ我々のゲルで、梅津庸一くんのパープルームの予備校の説明会を聞くチャンスを得た小学生もいたはずです(笑)。また今回サテライトスタジオとなった、モンゴルの住居用テント「ゲル」そのものから受けた影響も大いにあります。
もともとライブストリーミングとノマドは相性がいいんです。とくにDOMMUNEはスタジオの拠点を渋谷区に置きながらも、これまで世界中にスタジオそのものを移動させ、そこから世界に向けて発信するスタイル。ビューワーのデスクトップ上で毎日同じ窓から番組が眺められるのであれば、そこから見える風景自体は地球上のどこであっても、それはDOMMUNEというメディアの実態になりうるのです。これはノマドのアイデンティティそのものです。
僕たちの表現には二つの「ヘンザイ」が関わっています。一つは「あるところに集中する」という意味の「偏在」。ゲルの中に作ったスタジオは唯一無二の存在であり、そこに偏(かたよ)って在(あ)る「偏在」です。これは美術批評のクリシェでもある「いまここ」性のアウラの立証そのものです。一方で、DOMMUNEの活動はインターネットを通して世界とつながり、ライヴストリーミングを観ることができます。つまり、「いつでもどこでも」遍(あまね)く在るという意味としての「遍在」でもある。リトゥンアフターワーズの山縣良和くんが打ち出した「FLOATING NOMAD」のコンセプトを通じて、この二つの「ヘンザイ」がUENOYESではリアリティを持った表現につながったと思います。
出演者は、それぞれ自分たちが考えた内容を番組にしたのでしょうか?
宇川 そうです。オーガナイザーの亜洲中西屋(ASHU)の“2人の中西さん”と意見を出し合い、番組概要を共有してはいますが、実際は何が出てくるかは登壇者次第です。DOMMUNEは「何人が観たから成功」といったマスメディアの視聴率至上主義のような浅はかな評価は必要としていません。僕たちは大衆を相手に消費を煽っているわけではなく、芸術表現を行っているので、極端に言えば一人の熱狂的なビューワーに向けて番組を作ったっていいわけです。そして一人の人間が今、ここに生きている「個の存在と歴史」をネットを使ってストレートに配信し、世界中で共有すること。そして、番組が圧倒的な密度を秘めた文化遺産としてアーカイブされることを重視しています。
その視点から考えると、今回は「エクストリーム」という言葉がぴったりだったと思います。たとえば、パープルーム予備校のアーティストたちの配信には未成熟な若い息吹がそこにあり、ゆえにグダグダな部分があったとしても、僕自身はライブストリーミング黎明期を思い出してフレッシュな気持ちになりました。
津野青嵐さんと「べてるの家」の方たちの番組も究極的に自由でした。自分たちの精神症例を自覚しながら、それを自らのアイデンティティーとして捉えている姿が世界に配信できた。「UENOYES」の「DOMMUNE」だからこそ配信できた作品だと思っています。
宇川直宏 Ukawa Naohiro
1968年、香川県生まれ。映像、グラフィックデザイン、VJ、文筆など多方面で活動。2010年3月に、ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」を自らの芸術活動の一環として立ち上げる。2019年11月からはリニューアルオープンした渋谷パルコを新拠点に、さまざまなトーク、国内外のDJプレイ、ライブなどを発信している。
文/角田奈穂子(フィルモアイースト) 撮影/平野晋子
- UENOYES 2019/FLOATING NOMAD
会期:2019年11月9日(土)~11月10日(日)
時間:11:00~18:00
会場:上野恩賜公園 竹の台広場(噴水広場)
WEB:https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2019
※このイベントは終了しました。