“減速した世界”にアートはいかにアプローチするのか~UENOYES 2020 “HOME & AWAY”~<坂本⿓⼀×初沢亜利>

“減速した世界”にアートはいかにアプローチするのか
~UENOYES 2020 “HOME & AWAY”~
<坂本⿓⼀×初沢亜利>

社会包摂をテーマとする文化芸術プロジェクト「UENOYES(ウエノイエス)」。2018年から上野公園とその周辺地域を舞台にイベントが実施されてきたが、コロナ禍が続く2020年は、国内外から多彩なゲストを招いたトークセッションを上野を拠点にオンラインで展開し、ライブ配信するという新たなスタイルで、11月後半、6日間にわたって開催された。
題して「UENOYES 2020 “HOME & AWAY”」。“コロナ禍での巣ごもり=HOME”と“オンラインを介した遠隔地=AWAY”をつなぐという、この環境下ならではのチャレンジだ。司会はすべて、UENOYES総合プロデューサーの現代美術家、日比野克彦さんが務めた。 三つのトークセッションを例に2020年のUENOYESを振り返ってみる。

◆11月20日(金)のテーマ:『全ての多彩な人々に、文化・アートへの「入り口」を開く UENOYES 2020 Opening Day』
◆トークのテーマ:「Home and Away~減速した世界は持続可能か?

出演者:坂本龍一(音楽家)、初沢亜利(写真家)、日比野克彦(UENOYES総合プロデューサー・現代美術家)

音楽と写真、パンデミック下に記録したもの

11月20日、オープニングデー。この日に掲げられたテーマは、『全ての多彩な人々に、文化・アートへの「入り口」を開く UENOYES 2020 Opening Day』。UENOYESのスピリットをそのまま表現したような言葉だが、その第2部のトークに登場したのが、音楽家の坂本龍一さんと写真家の初沢亜利さんだ。

ニューヨークから帰国したばかりという坂本さんは、隔離期間中につき滞在先から。一方の初沢さんは、個展開催を控えたギャラリーからの参加。司会の日比野さんは東京藝術大学美術学部の大石膏室からというリモートセッションだった。

初顔合わせという2人の共通点は、新型コロナウイルスのパンデミックが始まって最初の自粛期間中に、音楽、写真というそれぞれの表現手法でそのときの“風景”や“心象”を記録したことにある。その初沢さんの写真集『東京、コロナ禍。』と、坂本さんが取り組んだプロジェクト『incomplete』が順に紹介された。

初沢さんの東京を切り取った作品の数々は興味深いトークのきっかけになったが、その一つが3月29日に撮影された上野公園の桜並木の写真だ。初沢さんが「東京では珍しく、満開の桜の状態で雪が降った。規制線が張られ、市民は歩いて見られなかった。今後おそらく永遠に撮ることができない風景では」と振り返る一枚。そこから同時期のニューヨークで坂本さんが察知した“街の音”の変化に話題は広がった。日常の喧騒を失い静まり返った大都市では、鳥の鳴き声といった“自然の音”がより大きく聞こえるようになったそうだ。初沢さんもまた、東日本大震災の翌日に宮城県の気仙沼で経験した、波の音だけが聞こえていた忘れがたい街の静けさの記憶について触れていた。

YouTubeで発表された『incomplete』は、世界がパンデミックという体験を共有し始めたときに、坂本さんが感じた「言葉では表せない独特な不思議な感覚」を音楽で表現した一連のアートピースである。坂本さんが信頼を寄せる音楽家13人にメールで呼びかけ、遠隔でのやりとりで楽曲をつくりあげた。ヨーロッパ、アジア、アメリカなど拠点も国籍も文化背景も違う音楽家たちと坂本さんが創作した曲はいずれも独創的で、それぞれに異なった静けさをたたえている。「自分のなかの異質なものを削る必要はない。しなくても一緒にいられる関係がいい」と、坂本さんはアーティストたちとの関係性、その在り様を表現していた。

カメラを片手に街に出て、人々や街の姿をリアルに捉えた写真家。自らの内面に芽生えた感覚と向き合い、他のアーティストたちとつながり、音を刻んだ音楽家。パンデミックによって日常の活動が“減速した世界”の様相を、まったく異なるアプローチで表現した2人のセッションは、アートに何ができるのか、またその力の多様性を示すものでもあった。

文/八幡谷真弓  撮影/三吉史高

UENOYES 2020 “HOME & AWAY”(ウエノイエス2020 “ホーム・アンド・アウェイ”)
日程:2020年11月20日(金)、21日(土)、22日(日)
        27日(金)、28日(土)、29日(日)
本トークセッションはYoutubeで視聴可能です。

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