空間と存在、オンラインを浮遊する演劇とアート~UENOYES 2020 “HOME & AWAY”~ <岡田利規×布施琳太郎>

空間と存在、オンラインを浮遊する演劇とアート
~UENOYES 2020 “HOME & AWAY”~
<岡田利規×布施琳太郎>

社会包摂をテーマとする文化芸術プロジェクト「UENOYES(ウエノイエス)」。2018年から上野公園とその周辺地域を舞台にイベントが実施されてきたが、コロナ禍が続く2020年は、国内外から多彩なゲストを招いたトークセッションを上野を拠点にオンラインで展開し、ライブ配信するという新たなスタイルで、11月後半、6日間にわたって開催された。
題して「UENOYES 2020 “HOME & AWAY”」。“コロナ禍での巣ごもり=HOME”と“オンラインを介した遠隔地=AWAY”をつなぐという、この環境下ならではのチャレンジだ。司会はすべて、UENOYES総合プロデューサーの現代美術家、日比野克彦さんが務めた。 三つのトークセッションを例に2020年のUENOYESを振り返ってみる。

◆11月28日(土)のテーマ:「オンラインは、どんどんリアルな場所になる」
◆トークのテーマ:「オンラインへ彷徨(さまよ)い出す演劇/アート~儚くも濃密な表現空間へ

出演者:岡田利規(演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰)、布施琳太郎(アーティスト)、日比野克彦(UENOYES総合プロデューサー・現代美術家)

今、この場にいること、時間を共有すること

「これまでさまざまなゲストに登場してもらい、コロナ禍での表現、多様性を築くための社会の課題、アートができること、いろんな意見をいただき……」という日比野さんのコメントで始まった5日目。たしかに出演者たちは多様な分野で活躍する錚々たる顔ぶれで、どのセッションにおいても未来へのヒントにつながる化学反応が起きていた。

この日の第1部に登場した岡田利規さんと布施琳太郎さんは、演劇、現代アートと足場は違えど、自粛要請期間中にオンライン上の表現で作品を発表したという共通点をもつ。パンデミックであらゆるライブイベントや展覧会が中止され、新規の企画も頓挫するなかにあって、自らの世界観を託した新作をインターネットを使って公開することに成功していた2人なのだ。

左から日比野克彦氏、岡田利規氏、布施琳太郎氏

先行は、ベルリンから参加した岡田さんの作品紹介。2020年6月にKAAT(神奈川芸術劇場)で上演予定だった新作『未練の幽霊と怪物』を、映像演劇「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」としてオンラインで発表したことが今回の主眼である。別々の場所にいる演者たちが一斉にリモートで演技した2日間限定のライブ配信で、舞台に見立てた卓上に演者の姿を単体で映すモニターが人数分据え付けられ、鑑賞者は岡田さんが紡ぐフィクションの世界をリアルタイムに堪能した、というものだ。

映像を使った演劇自体は、従来の形態を覆すことで演劇の本質を純化して見せてきた岡田さんが以前から取り組んでいた試みだが、トーク中、演劇が示す「今、ここ」の概念や「場」の重要性など、布施さんが投げかけた質問で岡田さんの思考がより明確になる局面も。『未練の幽霊と怪物』のキャストだった俳優でダンサーの森山未來さんもビデオ収録で登場し、「同じ場と時間の共有」という演劇に不可欠な要素がさらに強調されていた。

アートを組み立てるのは誰なのか

布施さんは、コロナ禍以前からインターネットを主題にしているアーティストだ。なかでも『隔離式濃厚接触室』は、同時に複数人のアクセスができない仕様のユニークなオンライン上の展覧会(公開中)。作品は、詩人・水沢なおさんの詩と、展覧会に“入室”した人が“今”いる場所から導き出されたGoogle Street Viewの加工映像をプログラミングしたもので、ただ一人の鑑賞者だけがその時間、その作品と対峙する体験をもつ。その背景には、「“分断と連帯”のどちらにも属さない形式で提供できれば、都市のなかに展覧会が存在する価値があるのではないか」という布施さんの意図がある。

『隔離式濃厚接触室』。誰かが展覧会を鑑賞している間は、アクセスできない

トークのなかでは、布施さんが創作活動のなかで展開する「新しい孤独」のアイデアや、アートは作家のものではなく鑑賞者自身が組み立てるものだという信念も浮き彫りになっていた。とりわけ「作品との“1対1”の関係性が鑑賞者のなかに立ち上がることが大切」という布施さんの言葉は、岡田さんを触発したようだ。

新型コロナウイルスの影響で、図らずも“オンラインへ彷徨い出す”ことに加速がついた文化芸術の世界。先駆者たちのディスカッションは、その時点での課題や可能性の示唆にあふれた非常にタイムリーなものだった。

文/八幡谷真弓 撮影/三吉史高( トップ画像及び * )

UENOYES 2020 “HOME & AWAY”(ウエノイエス2020 “ホーム・アンド・アウェイ”)
日程:2020年11月20日(金)、21日(土)、22日(日)
         27日(金)、28日(土)、29日(日)
https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2020
※本トークセッションはYoutubeで視聴可能です。

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