噴水の水上をランウェイに。アートを感じる、山縣良和さんの一夜のファッションショー

噴水の水上をランウェイに。
アートを感じる、山縣良和さんの一夜のファッションショー

2019年11月9日(土)~10日(日)、上野恩賜公園でスペシャルアートイベント「UENOYES 2019 /FLOATING NOMAD」が行われた。メインプログラムとなったのは、初日の夜に開催された「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のファッションショー。イベント全体のディレクターも務めるファッションデザイナー山縣良和さんによるレーベルで、2018年から発表を続けている「現代の魔女」をテーマにした3部作の集大成となるコレクションでもある。ショーのタイトルは「After All」。夜の帳が下りてほどなく、この場に集った著名なクリエイターたちも注目するなか、東京国立博物館前の竹の台広場(噴水広場)を舞台に繰り広げられた。

多様な人と文化が集散をくり返す、ここ上野でショーを

赤い照明の光に白いスモーク。木枯らしの風の音に重低音のビートをBGMに、ブラックシートで全身を覆った人々が次々に登場し始めた。「現代の魔女」を象徴するオープニングだ。ランウェイは噴水広場中央の水場を縦に貫き、浮かぶように設えられている。水面のリフレクションも相まって、会場は幻想的な世界観に包まれた。
自身のレーベル「writtenafterwards」のファッションショーと上野の関係を、山縣良和さんは語る。
「上野という“場所性”を考えたとき、さまざまな文化や民がいろんな遠いところから集まってはまた散っていく場所だなと思っていたことから、ノマド、流動民的なものを表現してみたいと、『FLOATING NOMAD』というテーマをUENOYESに設定しました。多様な人々が混ざり合うきっかけとしての機能を、上野にはもち続けてほしいですね。ファッションショーにしても、この上野でやること自体が大きなポイントとして自分のなかにありました」

 

ファッションか、アートか。その交差する部分

赤、白、黒を基調にしたコレクションは、自由な発想とサプライズの連続だ。大きさの異なるチェック柄のドレスやスーツに、ふわふわしたボリューム感を出したアート作品のような服、綿でできた大きなバラのヘッドアクセサリーや上半身を覆うほど巨大な帽子などのクリエイションは、既製の洋服づくりとは一線を画したものばかり。ファッションか、アートか。その境界を、山縣さんはどう考えているのだろう。
「どちらにも“ファッション性”と“アート性”はあるもので、片方が抜け落ちてしまうと表現として弱いものになると思っています。歴史的に見てもファッションとアートは確実に交差する部分があって、例えば南アフリカのブロンボス洞窟の遺跡からはボディペイントに使ったと考えられる顔料が見つかっています。つまり、7万年以上前から『装う』ことを人間はしていて、そこからアートに波及した部分もたくさんある。本質的な意味合いを考える癖が僕にはあるんですが、本質的にはその2つの表現は、大きく違うものとは捉えていないです」

分断、そして対立の時代に対して

月明かりのもとでのショーは密度の濃いメッセージを放ち、20分強ほどでフィナーレへ。大きな荷物をモチーフにしたものを身につけたモデルたちが、水上のランウェイを粛々と歩いていく。BGMは韓国人の女性シンガーソングライター、イ・ランが日本語でしっとり歌う「イムジン河」。海なのか川なのかを渡っていく「移民」を表したと話すが、その表現には「分断」という現代の時代性を観客がキャッチする余白も。
「かつては世界が統合される方向に向いていましたが、2010年代以降は分断される空気感が出てきていますよね。その分断や対立を生むことに対して、違和感を感じているんですが、それをダイレクトに言うのではない形の表現に適しているのがファッションだと思います。また今回は、日本、韓国、中国、インド、モンゴルなど、多様な国出身のモデルたちをキャスティングすることで、西洋から東洋へと文化をつなげたシルクロードの歴史に立ち返り、表現を試みました」

文/八幡谷真弓 撮影/平野晋子

UENOYES 2019/FLOATING NOMAD
「writtenafterwards」ファッションショー

会期:2019年11月9日(土)
時間:17:00~
会場:上野恩賜公園 竹の台広場の噴水
WEB:https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2019
※このイベントは終了しました。

Other Article