上野の空の下、日比野克彦さんと一緒に作ろう!誰でも参加できる段ボールオブジェ

上野の空の下、日比野克彦さんと一緒に作ろう!
誰でも参加できる段ボールオブジェ

社会包摂をテーマに、上野の魅力を世界に向けて発信する「UENOYES(ウエノイエス)」は、2018年から始まった文化芸術プロジェクト。このプロジェクトのスペシャルアートイベント「UENOYES 2019/FLOATING NOMAD」が、2019年11月9日〜10日の土日にわたって開催された。
会場の中央で終始にぎわいを集めていたのは、自由参加型のアートプログラム「段ボールオブジェ・サイト」だ。子どもから大人まで、参加者は実にさまざま。思い思いに創作が行われ、段ボールの集合体は時間ごとに形を変えながら、この場を象徴する存在となっていった。

日比野克彦さんが考える、段ボールの持つ“優しさ”とアート

11月9日、秋晴れの朝。上野恩賜公園の竹の台広場には、遊牧民の移動住居であるパオ(ゲル)が建てられ、いつもとは少し違う風情になっていた。そのパオに囲まれた中央のオープンスペースで、段ボールを組み立ててはスタッフに指示を出す人がいる。現代美術家の日比野克彦さんだ。「UENOYES」の総合プロデューサーで、今回のイベントでのライブ制作プログラム「段ボールオブジェ・サイト」の監修・総指揮者である。
「今年のUENOYESのディレクターは、ファッションデザイナーの山縣良和さんに依頼しました。そして山縣さんが『FLOATING NOMAD(浮遊遊動民)』というテーマを掲げ、さまざまなコンテンツが決まっていったんですが、そのなかで僕自身も『ノマドのための拠点のようなものを、段ボールで作れませんか?』と参加アーティストのひとりとして指名され、この段ボールオブジェのプロジェクトを行うことになりました。遊牧民が暮らすパオは、鉄やガラスを使った堅固な構造物とは違って、すべて人間が自分の力で作ることができるものですよね。ばらせば移動可能で、また再構築もできる。段ボールにも、それと似たリサイクル的な感覚があります」
と、話している側から、通りがかりの人たちが足を止めて、段ボールで何かを作ることに夢中になり始めている。組み立てては縦に積み上げる大人、側面いっぱいに絵を描く子ども、カッターの細工で装飾を施したり、長い耳を立てた動物を作り出す人も現れて……。段ボールは、日比野さんが初期のアート作品から取り入れてきた素材だ。
「ほかの人が作っているのを見ていると、自分もやりたくなるんですよね(笑)。子どもたちも大人たちも、想像力が刺激されて『私もこんなものを作ってみたい。あんなことをやったらどうなるんだろう』とイメージが浮かんでくる。それがアートのいちばん大切なところです。自分でもできると思えるのは、段ボールという素材が持つ優しさです。また上野には、美術館や動物園、アメ横での買い物など、国内外からの多種多様な人たちがやってきます。その不特定な人たちが集まってアートモニュメントを作ることにも、“ノマド感”がある。地球上の人間はすべて遊牧民なんだという、今年のUENOYESのメッセージにもつながると思います」

UENOYESの総合プロデューサーを務める、現代美術家の日比野克彦さん。

藝大のプログラムとファッション私塾の受講生がサポート

広場を訪れた人たちに声をかけ、制作のサポートをしているのが、日比野さんの教え子である東京藝術大学の履修証明プログラム「DOORプロジェクト」の受講生と、山縣さん主宰のファッション私塾「coconogacco/ここのがっこう」の混成チームだ。
「『アート×福祉』というプログラムに興味があったから」と受講理由を話してくれたのは、DOORチームの阪口仁美さんだ。この日は授業の一環としてお手伝い。
「DOORチームの目標は『最終的にはパオのような休憩所を』なのですが、今朝からひたすら箱を作って山積みにしてます(笑)。すごく楽しいです。側を通る皆さんともこの楽しさを共有したいなと声をかけています。これもアートの力かなと思いますね」

「DOORプロジェクト」の受講生として参加した、阪口仁美さん。

同じくDOORの受講生、川原吉恵さんは「1000個の段ボールを使う!? それはやりたい!」と、工作好きの中学生、弘暉くんを伴って親子での参加。吉恵さんが大人たちに「刻々と形態は変わっていきますよ。よかったらお帰りの際にも」と声をかければ、弘暉くんは「ここを持って、ここを倒してね」と段ボールに興味津々な小さな子どもたちを優しく誘導。上野の博物館や美術館には、家族で普段から訪れているそうだ。

「DOORプロジェクト」の受講生である川原吉恵さんは、弘暉くんと親子で参加。

「日常では見過ごされている端材、人の目に留まっていないものを使って何かを作るというのは、僕たちの考え方にも通じています」と言うのは、coconogaccoの卒業生でチームリーダーの市田直也さんだ。coconogaccoチームは「動物」がテーマ。広場には段ボールのアニマルワールドが徐々に形成され、いつしか首の長いキリンといった大作までもが出現していた。

coconogaccoチームをまとめていた市田直也さん。

どんな人にも居場所がある、上野の空の下で

DOORとcoconogaccoとUENOYES。その相性の良さを語るのは、日比野さんである。
「アートというのは、子どもでも大人でも、“その人らしい”というものができていきます。つまり、一人ひとりのその人らしさに価値を見出すのがアートの特性。coconogaccoにしても、基礎的な洋服づくりの技術を習得してクリエイションにつなげる従来のアプローチだけではなく、ほかの方法もあっていいという自由なコンセプトを持っています。これはDOORが取り組む福祉の課題でもありますが、今は多様性のある社会をつくろうという時代です。そんななかで『アートが活躍できる場はたくさんあるんじゃないか』というのが我々の出発点になっています。上野という、あらゆる人のその人らしさを受け入れる懐の深い土地の魅力を発信するUENOYESとも、合致するところだと思いますね」

地球上に70億の人がいるなら、70億通りの生き方があり、それぞれが何にも縛られることなく移動できる遊牧民である。FLOATING NOMADに託されたメッセージだ。
「トーハク(東京国立博物館)やル・コルビュジエが設計した西美(国立西洋美術館)のほか、東京藝大などがある上野は、誰もが知る文化ゾーンです。と同時に、土地には歴史があります。高尚なものだけじゃない、庶民的なものも含むさまざまな文化、カオスを受け入れている。それが上野の大きな魅力ですよね。だから、どんな人が来ても、居場所があるんじゃないでしょうか」
昨今アートは、作品を屋内で鑑賞することだけでなく、地域へと飛び出し、その場所だから生み出されるものを発信する役割へと広がりつつあるとも話す。まさにUENOYESも、上野とアートが奏でるコラボレーションだ。
11月10日の夕間暮れ。プロジェクトの終盤、段ボールオブジェは日比野さんの音頭でひとつの大きな「船」のモニュメントへと仕上がっていった。上野という土地と人との出合いから生まれた、特別なアート作品。イベントに参加していたミュージックパフォーマンス集団「FLOATING NOMAD ANONYMOUS」のメンバーが集まり、段ボールオブジェは祝祭の音楽のステージへと変わっていった。

文/八幡谷真弓 撮影/平野晋子

UENOYES 2019/FLOATING NOMAD
「段ボールオブジェ・サイト」

会期:2019年11月9日(土)~11月10日(日)
時間:11:00~16:30
会場:上野恩賜公園 竹の台広場
WEB:https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2019
※このイベントは終了しました。

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