初心者もベテランも。上野の森アートスクールで一日体験!

初心者もベテランも。上野の森アートスクールで一日体験!

芸術の数々に触れていると、自分も創作してみたい!という思いがむくむくと湧き上がってくる。そんな願いに応えてくれるのが、上野の森美術館が運営する絵画実技教室「上野の森アートスクール」だ。初心者から熟練者を対象に、油彩やアクリル、水彩、日本画など、曜日ごとに各講師が担当するクラスがある。筆を握るのは高校の授業以来のライターが水彩画のクラスを一日体験してみた。

現役アーティストからみっちり学ぶ!

参加したクラスは、全4回の「おとなの月(つき)1(いち)水彩講座」。午前10時半から午後4時まで、みっちり水彩画の描き方を学んでいく。
講師の村山之都先生は、色面の組み立てを重視した作風が持ち味だ。NHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」に登場した馬の絵を覚えている人も多いだろう。あの絵の作画と絵画指導を担当したのが、実は村山先生だ。
私が参加した日のテーマは「陰影のかたちと色味」。教室に入ると、20代から60代くらいまでの生徒さんたちがイーゼルの前に座っていた。教室の3カ所に置かれているのは課題の静物。レンガの上には金属缶が乗せられ、レプリカのりんごやオレンジが置かれている。缶やレンガには長い紐がたらされ、よく見るとレンガには小枝も立てかけられていた。これらをどう描いていくのだろう。

課題の静物。見える範囲をどう切り取り、絵にしていくか、静物をよく観察するところからレッスンは始まる。

「位置が決まれば、細かく描かなくても大丈夫」

村山先生の教え方は、まず先生のデモンストレーションがあり、その後、自分で描いていくスタイル。
レッスンのスタートは下書きから。先生は鉛筆を軽く持ち、ささっと描いていく。まわりを囲み、じっと見つめる生徒さんたち。熱心にメモを取ったり、近くで見るために場所を移動したりする人もいた。
「何を主役にするかを決めること。画面の中にどう配置するかも考えて」と村山先生。
自分の席に戻り、鉛筆を持ってみたが、構図の切り取り方が分からない。先生に教えてもらったように、両手の人差し指と中指を組み合わせ、四角い画面を作り、静物が乗った台を覗いてみた。指が額の代わりになり、描く範囲が分かりやすくなった。
「位置が決まれば、細かく描かなくても大丈夫」と先生が教室を回りながら声をかけてくれた。

人差し指と中指で四角を作り、その間から静物を覗くと、おおよその描く範囲の見当がつけやすい。
村山先生はクラスを回り、一人ひとりにアドバイス。良い点をあげながら教えてくれるので、やる気が刺激される。

立体的に見える色の塗り方とは?

次はシルエットを決める色塗りだ。先生は薄い茶褐色でレンガの一番明るいところから暗いところに向かって、また広い面から狭い面に向かって色を重ねる。1色で濃淡をつけているだけなのに立体的に見えてきた。
次に黄色が目立つ部分にレモンイエローを塗る。光って見えるハイライトの部分は、ティッシュで吸い取るといいそうだ。
りんごは血の色のようなペリレンマルーンを、金属缶にはグレーを使い、シルエットをとっていく。具体的な絵の具の名前や筆の動かし方を教えてもらえるのも、絵画教室のメリットだ。

シルエットに使う茶褐色はバーミリオンとレモンイエローを混ぜる。影の濃淡を色の濃さで塗り分けていく。
白板には今日のプロセスが手順ごとに分かりやすくコンパクトに記述されていた。
授業時間はたっぷりあるが、時間内に描き終えるには一心に描き続ける集中力が必要。

ここで午前の授業は終了。昼休みを挟み、午後からは静物が持つ色を具体的に塗る着彩の作業に入っていった。着彩でも明るい部分から暗い色へ、広い面から狭い面に塗るポイントは変わらない。
「画面(紙)が水で濡れていると色がぼやけてしまうので、濃い色を重ねたいときは、いったん乾かしてから塗り重ねましょう」(村山先生) 
教室には絵の具を乾かすためのドライヤーも用意してあった。
着彩が終わると仕上げの段階に。一番濃く見える部分を際立たせると画面が締まり、力強さが出てくる。ポイントは、筆につける水の量を減らすこと。パレットの絵の具を含ませたら、その筆の水分だけで描くのだ。
「最後にロープと小枝を塗ってください。この2つは、画面にリズム感を与えてくれます」(村山先生)

シルエットの段階で静物におおまかな陰影をつけたあと、着彩に入る。先生がお手本を見せてくれる。
先生の周囲を取り囲み、筆の使い方などを真剣に観察。どう描いているのか、先生は話しながら教えてくれる。

一人ひとりの個性が絵に。講評で気持ちが高まる!

午後3時半で制作は終了。最後は講評の時間に。全員の絵が一列にずらっと並べられた。淡く透明感のある絵を描いた人もいれば、ポップな色に重ねた人もいる。同じ課題を描いているのに座った位置や視点、塗り方などで、描いた人の個性が現れるのが面白い。
「技法を学ぶため、課題を忠実に真似する回もありましたが、今日は好きなように構図を決めてもらいました。構図は個性の決め手。どこに何を配置して、どう見せるかはとても大切なんです」(村山先生)
村山先生の講評は他の人へのアドバイスでも、とても参考になる。たとえば、ロープの描き方がよいとほめられた絵では、画面に躍動感が生まれていることがよく分かった。また、別の絵では、広い面をどう塗るかが水彩画では全体の印象を左右する大きな要素と気づくことができた。
初めて体験した本格的な絵画教室だったが、最後まで楽しくのびのびと絵を描くことができた。シルエットをとる描き方もとても勉強になった。
村山先生の水彩講座は、キャンセル待ちが出るほどの人気だ。そのため、2020年4月からは月曜日夜間の隔週で全11回のクラスが開講することになった。新しいクラスも人気を集めそうだ。

ずらりとイーゼルに立てかけられた生徒の作品。同じ課題でも人によって描き方に個性が出るのが面白い(手前が筆者の作品)。
村山先生は、上達した点や個性がよく出ている点をほめてくれるので、すぐに「また描いてみたい」という気持ちが湧いてくる。

【村山之都先生から】

水彩画は慣れが大きい技法です。絵の具のぼかし方や紙の乾き方など場数を踏んで分かることがたくさんあります。紙がふくんだ水の量でぼける範囲が変わったり、色の境目で混じり合ったり、自分でコントロールしきれないところが、じつは魅力なのです。
今は絵画の技法を教えてくれる本もたくさんありますが、直に学ぶからこそ身につく知識と技術もあります。「上野の森アートスクール」はさまざまなコースがありますし、カリキュラムが充実している絵画教室です。ここで学ぶと、楽しく描くための引き出しが増えると思います。

文/角田奈穂子(フィルモアイースト) 撮影/三吉史高

村山之都(むらやま・しつ)
1969年北海道生まれ。2001年武蔵野美術大学油絵学科を卒業し、03年同大大学院美術専攻油絵コース修了。

上野の森美術館別館 上野の森アートスクール

Tel:03-5817-2810
Fax:03-3836-0066
URL:www.ueno-mori.org/artschool

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