絵画に文化財、美術品、建築などさまざまな芸術と文化に触れられる上野公園。同様に音楽も上野にとって欠かすことのできない文化のひとつだ。「文化の杜の音めぐり」は2019年から始まった無料の音楽イベント。公園内にある6館の文化施設で1日に3か所ずつ、2日間かけて6つのコンサートが行われる。各演奏時間は20~30分と、気軽に立ち寄れるのが魅力。上野ならではの音楽の楽しみ方に触れてみよう。
美術館や博物館で開催されるスペシャルコンサート
坂本龍一や葉加瀬太郎など数々の音楽家を輩出している東京藝術大学音楽学部をはじめ、日本で最初に建てられた本格的な西洋式音楽ホール「旧東京音楽学校奏楽堂」、オペラやバレエもできる本格的な音楽ホールである東京文化会館など、上野にとって音楽は欠かすことのできない文化のひとつ。
そうしたなか、2019年から毎年2月に行われているのがスペシャルコンサート「文化の杜の音めぐり」。これは新進アーティストの発掘、育成を目的にした東京文化会館主催の「東京音楽コンクール」入賞者が中心となって弦楽四重奏やフルート三重奏などを編成し、上野公園にある文化施設6館でミニコンサートを行うというもの。東京音楽コンクールは入賞者に出演機会の提供やリサイタル支援などを手厚く行うことでも知られており、このイベントも演奏家への大きなサポートとなっている。一方、来場者にとっては東京都美術館、上野の森美術館などふだん演奏が行われることのない場所で、さまざまなプログラムを楽しめるのが魅力だ。
たとえば「文化の杜の音めぐり2020」の初日に弦楽四重奏曲が演奏された場所はロケ地としてもよく利用される東京国立博物館本館の大階段。重厚な雰囲気のなか響きわたるヴァイオリンやチェロの音色に思わず足を止め、耳を傾けた人も多い。
かしこまらずに音楽を聴き、さまざまな文化に触れる
かつて瀧廉太郎がピアノを弾き、山田耕筰が歌曲を歌った旧東京音楽学校奏楽堂でのコンサートもまた格別。約100年前に購入された日本最古のパイプオルガンを背に若手音楽家が演奏する姿は、音楽が時間を超えて人の心を動かしてきたことを教えてくれる。2020年にこの場所でピアノ・ソロを演奏した深貝理紗子さんにとっても「文化の杜の音めぐり」と旧東京音楽学校奏楽堂での演奏は特別なものだという。
「有名なコンサートホールにも町の小さな会場にも、音楽家にとってはそれぞれの良さがありますが、クラシカルな雰囲気のなか、お客様を身近に感じながら演奏できる旧東京音楽学校奏楽堂はやっぱり特別な魅力があります。このイベントには多くの東京音楽コンクール受賞者が参加していますが、私にとってもこのコンクールは、たくさんの方に演奏を聴いていただけるきっかけになった大切な賞。だから、演奏の機会をいただけるのは本当にうれしいですね。海外では博物館や美術館など文化的な施設でもコンサートがよく行われますが、日本ではまだまだ珍しい。公園を散歩しながらふらりと立ち寄って、かしこまらずに音楽を楽しめる『文化の杜の音めぐり』のようなイベントがもっと増えていくとうれしいですね」
2日目は東京文化会館で弦楽四重奏、国立科学博物館で木管四重奏、東京都美術館でソプラノ、バス、ギターによるコンサートを開催。大学生から若手実力派まで個性あふれる演奏家たちが、岡野貞一の「ふるさと」や武満徹の作品を演奏し、イベントを締めくくった。
芸術に囲まれた非日常的な空間で、音楽との対話が楽しめる「文化の杜の音めぐり。来年はどのような演奏が聴けるのか、今から心待ちにしたい。
文/奥田高大 撮影/平野晋子
- 文化の杜の音めぐり2020
会期:2020年2月12日(水)、2月13日(木)
場所:上野の森美術館、東京国立博物館、旧東京音楽学校奏楽堂、 東京文化会館、国立科学博物館、東京都美術館
https://uenoyes.ueno-bunka.jp/2019/events/music.php
※このイベントは終了しました。