巨匠の絵画と建築を。黒田記念館で過ごす、静かで贅沢な時間

巨匠の絵画と建築を。
黒田記念館で過ごす、静かで贅沢な時間

上野公園にはさまざまな美術館や博物館が集まっているが、公園の北西にある「黒田記念館」を訪れたことはあるだろうか? 日本の美術に多大な影響を与えた洋画家、黒田清輝の記念館だ。その作品を教科書で見たことがある人も多いかもしれない。建物は昭和初期の美術館建築のスタイルを残し、巨匠の作品を美しい空間で鑑賞することができる。入館は無料。カフェのある別館も併設しており、上野で気軽に、静かで贅沢な時間を過ごせる、おすすめのスポットだ。

教科書でおなじみ!? 「日本近代洋画の父」黒田清輝の世界に触れる

スクラッチタイルを貼った外観が印象的な黒田記念館。

「日本近代洋画の父」と呼ばれ、日本の美術に大きな影響を与えた黒田清輝。東京藝術大学美術学部の前身とも言える東京美術学校の教授を務めるなど、上野とも縁のある彼の貴重な作品群を見られる場所が、上野公園すぐそばにある黒田記念館だ。

同館は画家であり、貴族院の議員も務めた黒田が遺産の一部を美術の奨励事業に役立てるよう遺言したのを受けて、1928年に完成したもの。その後、日本・東洋美術に関する調査研究、資料収集を行う美術研究所(現在の東京文化財研究所)として使われていたものの、2000年に東京文化財研究所が移転。改修を経て、現在は無料で黒田の作品を鑑賞できる場所となっている。

同館は大きく、遺族から寄贈されたコレクションが展示されている記念室と、黒田の代表作である『湖畔』(1897年)のほか、『読書』(1891年)、『舞妓』(1893年)、『智・感・情』(1899年)が鑑賞できる特別室からなる。

当時の面影を残す木製の階段を上がり、画家・中村不折の揮毫による「黒田子爵記念室」の文字が刻まれた扉の先にあるのが記念室。室内には黒田が渡仏していた20代の頃のデッサン、黒田が使っていたイーゼルや椅子、絵の具箱。黒田清輝のパリでのデビュー作となるはずだった『マンドリンを持てる女』(1891年)、フランス留学から帰国した黒田が描いた『昔語り』(完成作は焼失)の下絵などが並ぶ。教科書などで見た『湖畔』の淡く、やわらかなイメージとは異なり、どこかレンブラントを思わせる陰影のある作品なども並んでおり、筆致の変遷が興味深い。

記念室の入り口。左手にあるのは詩人であり、彫刻家でもある高村光太郎による黒田の胸像。
フランス留学中に描かれたスケッチ。
『昔語り』の下絵や図画稿。
フランス留学中、サロン出品を目指して制作された『マンドリンを持てる女』(1891年)が、記念室の正面に展示されていた。

一方、特別室は作品保持のため、公開されるのは正月、春、秋の年3回。限られた期間ではあるが、日本美術史に残る名作を間近で見られる貴重な機会となっている。

特別室。左手に見えるのが『智・感・情』(1899年)の三部作。奥に並んでいるのが黒田清輝の代表作のひとつ『読書』(1891年)、と『舞妓』(1893年)。*

美しい建築を楽しみ、カフェで憩う

黒田記念館は美術館建築としても高い評価を受けている。当時の流行だったというスクラッチタイルを用いた外観、天窓からやわらかな光が差し込む館内、アールヌーヴォー風の装飾が施された階段、イオニア式と呼ばれるギリシャ様式の列柱など、歌舞伎座(旧)や明治生命館なども手がけた岡田信一郎の手による建築は、現在は国の登録有形文化財にもなっている。

当時のまま残る館内の階段や天井の装飾が美しい。階段のアールヌーヴォー風の装飾は岡田信一郎の弟子、金沢庸治のデザイン。

黒田の作品に触れたあとは、隣接する別館、上島珈琲店黒田記念館店で作品の余韻に浸ろう。

黒田記念館のリニューアルオープンより一足先に開業した同店は、記念館の雰囲気に寄り添うようにデザインされており、鑑賞後や上野の杜散策の休憩にぴったり。テラス席がある1階のほか、2階は落ち着いた和風モダンな内装になっており、コーヒーやスイーツを味わいながら静かで贅沢な時間を過ごすことができそうだ。

春には桜、秋には紅葉も美しい黒田記念館。上野散策の際にぜひ立ち寄ってみてほしい。

別館として隣接する上島珈琲店黒田記念館店。ネルを使って丁寧に抽出されたネルドリップブレンドコーヒー 390円(税抜)。ケーキやサンドウィッチなどのフードメニューも充実している。

文/奥田高大 撮影/平野晋子(*は東京国立博物館提供)

黒田記念館

住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間 9:30~17:00
休館日:月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
https://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=hall&hid=17

上島珈琲店 黒田記念館店
住所:東京都台東区上野公園12-53 黒田記念館別館1・2階
営業時間:7:30~20:00(平日)、8:00~19:00(土日祝)
定休日:不定休
https://shop.ufs.co.jp/ufs/spot/detail?code=3707

※この記事は2020年2月現在のものです。

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