上野にある美術館や博物館、図書館では、それぞれの特長や専門を生かしながら連携することで、新たな文化的価値を見出そうという動きが盛んになりつつある。今回紹介するのはその一つ、東京都美術館と国立国会図書館国際子ども図書館が行った連携企画だ。両館は、同時期に開催されていた展覧会「上野アーティストプロジェクト2019『子どもへのまなざし』」(東京都美術館)と「絵本に見るアートの100年—ダダからニュー・ペインティングまで」(国際子ども図書館)に関連して、「子ども」をキーワードに、お互いの館でイベントを開催。第1弾として2019年11月30日、東京都美術館の学芸員による講演会が国際子ども図書館で開かれた。
講演会の会場になったのは、国際子ども図書館アーチ棟の研修室。寺倉憲一国際子ども図書館長が開会の挨拶をした。国際子ども図書館は子どもの本の魅力を広く伝えるため、講演会や展示会などをより積極的に展開しているという。寺倉館長は今回、東京都美術館とコラボすることになったきっかけをこう話す。
「上野動物園や東京文化会館とコラボイベントを展開してきましたが、美術館とも連携してみたいと思っていました。東京都美術館さんから思いがけずお声がけいただき、実現したのが今日の講演会なのです」
挨拶が終わり、最初に登壇したのは、東京都美術館学芸員の岡本純子さんだ。講演のテーマは「20世紀美術史の基礎知識」。
国際子ども図書館が開催した「絵本に見るアートの100年」展では、20世紀初頭から現代までに出版されたさまざまな絵本を美術史の節目ごとに展示。年代を追って絵本を眺めていくことで、20世紀の美術史も学ぶことができる流れになっていた。
岡本さんは、展示に対する理解が深まるように、20世紀初頭に起きたダダやシュルレアリスム、ロシア・アヴァンギャルド、バウハウスなどの影響を色濃く受けた絵本をプロジェクターで投影。それらを題材に20世紀の美術史を語っていく。講演の後半では欧米だけでなく、日本の絵本がどのように変化したのかも紹介してくれた。
「東京都美術館がリニューアルを機にテーマを重視した自主企画展をするようになったことで、若い世代に美術史をどう伝えていくかが課題になっていた」と岡本さん。「国際子ども図書館の絵本とアートの展示会のおかげで、美術史の理解を深めるために、どのような展示の可能性があるか、大いに刺激を受けた」と締めくくった。
2人目の登壇者、田中宏子さんは東京都美術館が開催した「子どもへのまなざし」展の担当学芸員だ。「子ども時代は誰もが経験するものですし、親になり、子育てを経験する人もいます。作家たちは子どもに込める想いを、それぞれが多層的に作品のなかで表現してきました」と語った田中さん。この講演会に参加した人たちが鑑賞するときの参考になるよう、作家の人となりにも触れながら展示作品について紹介した。
文/角田奈穂子(フィルモアイースト) 写真提供/東京都美術館
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■上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」
会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
時間:9:30〜17:30
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
※この展覧会は終了しました。
■絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで
会期:[前期]2019年10月1日(火)〜2019年11月17日(日)
[後期]2019年11月19日(火)〜2020年1月19日(日)
会場:国際子ども図書館 レンガ棟3階 本のミュージアム
※この展示会は終了しました。