「公募展のふるさと」東京都美術館で 子どもをモチーフに現代作家6人が競演

「公募展のふるさと」東京都美術館で
子どもをモチーフに現代作家6人が競演

「公募展のふるさと」とも呼ばれる東京都美術館では、公募団体による展覧会が一年中開かれている。2017年には、展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」をスタート。毎年異なるテーマを設け、公募団体に所属して活躍する現代作家の作品とその魅力を積極的に紹介してきた。2019年のテーマは「子ども」。「子どもへのまなざし」と題して、観る側のイメージを多層的に刺激する絵画55点が展示された。

東京都美術館の正門を入って左側に並んで建つ4つの公募棟。それぞれ青、黄、緑、赤をテーマカラーにしたこの建物は、東京都美術館の設計者で日本モダニズム建築の巨匠・前川國男の、色に対するこだわりが垣間見られる場所でもある。ここでは、年間250を超える公募展が随時開催されている。

上野アーティストプロジェクトが開かれるのは、同じく前川建築の粋を堪能できる地下2・3階のギャラリーAとC。今回の「子どもへのまなざし」展もそこで行われ、子どもが誕生し、思春期を経て大人になり、次の命を育むという時の流れに沿って、6人の作家が描いた55の作品が3章構成で展示された。

愛に包まれた幼子の時代から、ヒリヒリと肌を刺すような思春期へ

最初はギャラリーCの「第1章 愛される存在」だ。この世に生を受け、愛に包まれながら育つ幼子の時代が描かれている。

まず観覧者を迎えるのは、愛らしい少女や心温まる母子像を描いた新生加奈さんの作品。《少女と宇宙》は静謐な世界を背景に無垢なまなざしを持つ少女がたたずむ。その視線には、穏やかながら、世の中のすべてを見通すような透明な美しさが漂っていた。

大地にどっかりと腰を下ろし、たくましい腕で赤子を包み込む母の姿が観る側を圧倒するのは、大久保綾子さんの作品《生命を紡ぐ》だ。大らかで熱量の高い母の愛と、子どもが安心して育つ様子が伝わってくる。

新生加奈 《少女と宇宙》 2016 作家蔵 撮影:大谷一郎 *
大久保綾子 《生命を紡ぐ》 2014 作家蔵 *

「第2章 成長と葛藤」に入ると、ギャラリーがヒリヒリと肌を刺すような空気に変わる。この章で描かれているのは、自己が認識する自分の姿と社会から求められる姿との狭間で葛藤する思春期の子どもたちだ。

高校教師でもある志田翼さんの《たくさん》は、中学生くらいの少女が描かれ、その手の上にスマートフォンが浮かんでいる。彼女を取り巻く無数の四角い画面。工場やビル群も見える。その遠くにはうつむいた少年の姿。少女の瞳はどこを見ているのだろう。今を生きる子どもたちが物質には恵まれていても、あふれんばかりの情報に取り囲まれ、何を選ぶべきか戸惑い、息苦しさを感じているのではないかと考えさせられる。

女子高生を描く豊澤めぐみさんの作品からは、誰もが思春期に抱いていた孤独感や無力感、自己嫌悪感が胸に迫ってくる。一方で、思春期には、閉塞感を打ち破る爆発的なエネルギーが潜むことにも気づかされる。

志田翼 《たくさん》 2018 作家蔵 撮影:大谷一郎 *
豊澤めぐみ 《The Birthday》 2015 作家蔵 撮影:大谷一郎 *
山本靖久 《柔らかな予感》 2015 作家蔵 *
木原正徳 《人のかたち野のかたち-地に還る-》 2017 作家蔵 *

子どもを育む営みが自然と結びつき、時代を超えた生命の循環へ

「第3章 生命のつながり」では、子どもが大人になり、次世代を育んでいく営みが、時代を超える生命の循環として描かれる。

金箔や和紙、墨などを使い、立体的な構造を持つ山本靖久さんの作品には物質文明へのアンチテーゼがあり、自然や動物たちと共生する豊かな世界が描かれている。その世界観は、いつかたどり着きたいと願う理想の楽園のようだ。

人と自然が溶け合う幻想的な世界を鮮やかな色で描き出す木原正徳さんの作品には、リズミカルな生命の饗宴があふれている。新たな命が生まれ出る源を目にするとしたら、木原さんの作品のような世界なのだろう。

子どもから大人、そして次の世代へ。「子どもへのまなざし」展は、まるで人生を体感するような豊潤さにあふれる作品展だった。



文・撮影/角田奈穂子(フィルモアイースト) 写真提供/東京都美術館(*のみ)

上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」

会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
※この展覧会は終了しました。

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