上野はアートを鑑賞するだけでなく、学ぶこともできるエリア。「絵を描いてみたい!」 という人におすすめなのが、上野の森美術館が運営している「上野の森アートスクール」だ。初心者から本格的に学びたい人まで、幅広く参加できる講座を展開している。一般的な絵画教室に比べ、どんな違いがあるのだろう? 上野の美術館で絵を学ぶ魅力について、アートスクール担当者の佐藤美和さんに教えてもらった。
講師は現役アーティスト。知る人ぞ知る、美術館の中にあるアートスクール
「上野の森アートスクール」は、上野の森美術館の別館3階にある。「絵を描いてみたい」という意欲さえあれば、初めて絵筆を持つ初心者にも門戸が開かれている。
講座は大きく4種類。半年の間に10〜20回通ってじっくり学ぶ「通常講座」、週末などの短期で完結する「単発講座」、春やゴールデンウィークなどに開催される「特別講座」に加え、通信講座がある。さらに、活動の一環として、仙台や神戸、福岡などで2日間の日程で開講する地方講座もある。
スクールの開校は1991年。同館が主催する公募展(上野の森美術館大賞展)の受賞者に講師を依頼したことがはじまりで、現在も講師陣は現役の作家ばかり。ベテランから若手アーティストまで、画風や経歴も異なる作家たちが先生だ。
現在、生徒数は通常講座だけで350人ほどもいる。東京近郊だけでなく、九州や東北など、地方から通う生徒もいるという。
「講座が増えるにつれて、上達を目指して熱心に勉強する生徒さんが増えてきました。先生方も作家として作品を発表し、活躍している方ばかり。このアートスクールは、作家と生徒さんが、“今の時代”を表現する場にもなっているんです」と佐藤さんは話す。
上野動物園でスケッチする講座や、大型の作品に取り組む講座も
上野の森アートスクールの授業は、絵を描く時間がたっぷりとられている。講座のなかには午前から夕方まで制作するクラスもある。100号サイズの大作に取り組むクラスの光景は、さながら作家のアトリエのようだ。
多彩なカリキュラムも目を引く。油絵、デッサン、アクリル画、水彩画、日本画などに加え、万年筆画を学ぶ珍しい講座などさまざま。
特に、単発講座は絵画制作に欠かせない下地の勉強に特化したクラスもあれば、描写力のアップに最適な「クロッキーとっくん!!」など、技術力向上のための講座の宝庫だ。2020年4月からスタートする月1回の新しいシリーズ「おとなの月1講座」では、上野動物園で動物を水彩画でスケッチするなど、上野公園にあるスクールならではのユニークな内容も備える。
「カリキュラムは先生と相談し、美術の楽しさが広がるように工夫を重ねています。生徒さんからは『今まで興味がなかった分野への関心が増えた』『絵の見方の幅が広がった』という感想をいただくことも。たとえば、油絵のクラスでも、回によってはデッサンや構図を学ぶことがあります。そういったプラスアルファの知識や体験は、技法を上達させるだけでなく、美術鑑賞の力の幅を広げてくれるんです」(佐藤さん)
自分の作品が美術館に展示される!
このアートスクールの大きな特徴になっているのが、作品発表の場があること。なかでもスクール生が楽しみにしているのが「アトリエ展」だ。地方講座を含め、その年に受講すれば応募資格を得られ、作品はすべて上野の森美術館に展示される。
「2020年のアトリエ展には205名が応募し、総数は275点に上りました。優秀な作品には賞が贈られるので、生徒のモチベーションも上がります。それに、フェルメールやゴッホの展覧会を行う美術館に、自分の作品も展示され、多くの人に鑑賞してもらう機会があるのは、このスクールならではの特徴だと思います」(佐藤さん)
さらにステップアップしたいと思ったら、公募展に応募する道もある。上野の森美術館では「日本の自然を描く展」と「上野の森美術館大賞展」の2つの公募展を開催。スクールで制作した作品を出品するケースも多くなっている。
上野の森美術館は有名作家の作品を展示するだけでなく、アートスクールを通して現代の作家やアマチュアの美術愛好家を育てる環境を整え、成長をサポートしている。まさに、 “Art of our time(私たちの時代のアート)”、つまり、“今”の作家の作品を生み出している、現在進行形の美術館なのだ。
文/角田奈穂子(フィルモアイースト) 撮影/三吉史高
- 上野の森美術館別館 上野の森アートスクール
Tel:03-5817-2810
Fax:03-3836-0066
www.ueno-mori.org/artschool
※この記事は2020年2月現在のものです。