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若手作家の登竜門! 「VOCA展」の見方、教えます
上野の森美術館で毎年行われている「VOCA展(ヴォーカ展)」。若いアーティストが世に広く知られる機会の一つとして知られ、2020年で27回目の開催となった。具体的にはどのような展覧会なのだろう? VOCA展を20年以上担当してきたベテラン学芸員に、その魅力と楽しみ方のポイントを伺った。
あの有名作家も過去に参加! 全国の新たな才能を発掘してきた展覧会
若手作家の登竜門として、1994年から開催されている展覧会「VOCA展」が今年も上野の森美術館で開催された。27回目を数えた2020年もVOCA(The Vision of Contemporary Art)という名が示す通り、現代美術の未来を展望するような意欲的、実験的な作品が多数、出展された。
VOCA展の大きな特徴は作品の選出方法にある。美術館の展覧会はキュレーターがテーマに沿ってさまざまな作品を集めるのが一般的だが、VOCA展は、全国の美術館学芸員やジャーナリスト、研究者など約30~40名が推薦した40歳以下の若手作家が新作を出品する方式。全国の“目利き”が選ぶことで、まだ知名度のない新たな才能を発掘し、スポットライトをあてる役割を担っている。これまで延べ921人(組)の作家が出展し、過去には村上隆や奈良美智、蜷川実花、やなぎみわといった有名アーティストが参加していることからも、その“目利き”の確かさがうかがえる。
展示会場となる上野の森美術館の学芸員として20年以上、VOCA展を担当してきた坂元暁美さんは、その魅力を次のように説明する。
「推薦員が全国に分散していることもあり、出展する作家が非常にバラエティーに富んでいるのが特徴の一つです。出品作家のなかにはある程度、知名度のある方もいますが、まだまだ知られていない作家が大半。私自身、毎年、新たな作家を知る貴重な機会になっています」
「平面」における、多様な表現とメッセージ性を楽しもう
VOCA展がスタートしたのは1994年。当時は立体造形やインスタレーション、映像など新しい表現が注目を集めていたこともあり、現代美術において「絵画は古い」という風潮が少なからずあったという。そんななか始まった同展は、美術の原点を見つめ直すかのように出品作品を厚さ20センチの「平面」に限定。絵画が見直される機運の一つにもなった。一方で、「平面」という規定の中でも、作家たちがさまざまな表現方法に挑戦していることに注目してほしいと坂元さんは言う。
「当初は絵画中心でしたが、最近は液晶モニターを活用した映像作品や、規定範囲のなかで立体的な作品も数多く出品されていて、表現が多様になっています。同時に若い作家が多いこともあって、時代性や社会的なメッセージを感じさせる作品も増えていると思います」
今年のグランプリ「VOCA賞」を受賞したのは、アーティストデュオのNerhol(田中義久さん・飯田竜太さん)の作品《Remove》。プリントした写真を重ね、加工するという手法で作られたこの作品は、まさに坂元さんの言う多様な表現と不安定な現代社会を示唆しているようにも思える。
「《Remove》はNASAが実験をしている動画の連続写真を150枚ぐらい重ねて、彫り込んだもの。手法が面白いだけでなく、どことなく不穏な空気や、空間のゆがみが表現されていて、強く引き込まれる作品だと思います。VOCA展はこれからますます注目される作家の作品が集まる展覧会です。新しい才能との出会いを楽しむような気持ちで、ご覧いただけたらと思います」
全国に散らばる才能が一堂に集結するVOCA展。来年はどのような作家が見いだされ、現代アートに一石を投じるような作品を見せてくれるのか。楽しみにしたい。
文/奥田高大 撮影/三吉史高 写真提供/上野の森美術館(*のみ)
- VOCA展
上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園 1-2
営業時間:10:00~17:00
定休日:不定休
http://www.ueno-mori.org/
http://www.ueno-mori.org/exhibitions/main/voca/2020/※この記事は2020年3月現在のものです。