今年の干支・ネズミは「幸福の使者」 トーハクにキュートなネズミが大集合!

今年の干支・ネズミは「幸福の使者」
トーハクにキュートなネズミが大集合!

ネズミといえば……皆さんはどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ミッキーマウスのような人気のキャラクターもいるが、人間の食べ物を失敬する厄介者という印象をもっている人が多いのではないだろうか。そんな不遇をかこつ(?)ネズミだが、じつは幸福をもたらす存在として古くから親しまれてきた。17回目を迎えた2020年の東京国立博物館(トーハク)の正月特集「博物館に初もうで」では、今年の干支・ネズミをフィーチャー! 「子・鼠・ねずみ」と題して、収蔵品の中からネズミにまつわる55件を展示した。「調べれば調べるほど面白い!」と語る研究員の河野正訓さんが、ネズミの魅力を教えてくれた。

今回の企画をきっかけに、すっかりネズミに魅了されたという河野さん。チラシにも思い入れが深いようで、隠された“仕掛け”を教えてくれた。「真ん中に『ね!トーハク!』とその右にある当館所蔵の国宝『松林図屛風』の写真。これは、東京国立博物館の『トーハク』と松林図屏風を描いた長谷川『等伯』を掛けたものなんです(笑)」。“日本美術の殿堂”というだけでなく、そんな遊び心が垣間見えるところも、ファンを惹きつけてやまないトーハクの魅力なのだ。*

「実家が商売をしていたこともあって、幼い頃からネズミは駆除の対象という目で見ていたんです。ところが、展示の企画担当として本館収蔵品の中からネズミだけを集めるということになり、ネズミに関する史料を探しているうちに……これがまた、調べれば調べるほど面白いんです(笑)」

大黒天はもともと、インドや周辺の国々で暗黒神「マハーカーラ」(シヴァ神の別名)として、人々から恐れられていたという。日本に伝わってきたのは平安時代のこと。当時の神仏習合の流れに乗って大国主神と同一視されるようになり、やがて福をもたらす神様として人々の生活の中に定着していった。

ネズミと大黒天の関係は、この大国主神と大黒天が融合する中で生まれた。

「『古事記』には、出雲大社の祭神・大国主神(おおくにぬしのかみ)が窮地に陥った時に、知恵者のネズミに救われたという説話が出てきます。そこからネズミは大国主神と縁のある動物とみなされるようになり、大国主神と大黒天が同一視されてからは、ネズミは大黒天の使者として親しまれるようになっていきました」

ギャラリートークのあと、聴衆に混じって会場内をゆっくり見て回ると、墨をする時に使う水を入れる水滴や根付、明治期のスケッチなど、ネズミをモチーフにした作品がずらりと展示されていた。ネズミそのものだけではなく、ネズミ色の着物なども飾られている。江戸時代は幕府の倹約令によって、茶色やネズミ色といった地味な色合いのものしか身に着けられなかった。そんな中でも人々はさまざまなネズミ色を考案し、粋でおしゃれな着こなしを楽しんでいたそうだ。

どの作品も保存状態が良く、美しく飾られている様子に、ため息をつきながら見入る来館者も少なくない。河野さんによると、今回の展示に合わせて修復し、初めて公開した作品もあるそうだ。

「たとえば、頭がネズミで体が人間の隼人石(はやといし)像碑拓本。保存修復課に協力してもらって、展示できる形にあしらいを整え、今回初めて公開することができたんです。そのほか、染織や工芸、書跡、陶磁など、トーハクにいるさまざまな分野の研究員と密に連携をとりながら、1年半くらいかけて準備をしました」

ギャラリートークには、100人を超える人が詰めかけた。中には、熱心にメモをとる人も。

こだわりは、テーマの設定だ。最初に十二支の一つとして登場するネズミから入って、ネズミと猫との関係、大黒天とネズミ、ネズミという名前の語源やネズミの図鑑など、ひと通り見れば「ネズミ博士」になれるのでは?と思うほど、さまざまな角度から紹介。そして、最後に可愛らしいネズミを取り上げた。

「いわゆる“勉強”だけではなく、美術的な視点でネズミを見てほしいと思ったんです」

その思いは十分伝わったようだ。若い世代の来館者も多く、中には「かわいい!」と口走りながらスマートフォンで撮影している人もいる。

お正月だけではもったいない!と思うほど、充実した展覧会。来年のウシ年も乞うご期待!




文/湯田陽子 撮影/上野文化の杜新構想実行委員会 写真提供/東京国立博物館(*のみ)

博物館に初もうで 子・鼠・ネズミ

会場:東京国立博物館 本館特別1室・特別2室
会期:2020年1月2日(木)~1月26日(日)
時間:9:30~17:00 ※金・土曜日は9:30~21:00

※この展示は終了しました。

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