上野最古のお堂 清水観音堂で願い玉を投げよう

上野最古のお堂 清水観音堂で願い玉を投げよう

もともと徳川将軍家の菩提寺である東叡山寛永寺の境内だった上野公園一帯。公園内には今でも江戸の名残をとどめる場所が随所にあるという。その中でも、上野の山に現存する最古の建造物が清水観音堂。眼下に不忍池を望む高台に建ち、歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」にも登場する。江戸時代にタイムスリップした気分でお堂を訪ねてみた。

御本尊はミラクルな力を持つ千手観音様

まずは、お参りをすませようと本堂へ。

清水観音堂の御本尊は千手観世音菩薩。平安時代の高僧、恵心僧都が自ら彫ったとされる像で、もともと京都の清水寺に安置されていたものを譲り受けたそうだ。普段はお目にかかることはできないが、毎年2月最初の午の日に行われる「初午(はつうま)法楽」の縁日に限り、ご開帳される。

なぜこの日だけなのかというと、霊験あらたかな逸話に由来する。日頃からこの観音様を信仰していた平家の武将・平盛久が鎌倉の由比ヶ浜で首を斬られようとした時に、盛久めがけて振り下ろされた刀が突然折れて、命が助かったという。この出来事が起きたのが午の年の午の日、午の刻であったとのことから、初午の日が特別な日となったそうだ。

御本尊である千手観世音菩薩像を精巧に再現したお守り。

あらためて本堂の奥を見てみると、御本尊の千手観世音菩薩が安置されている厨子(ずし)の周りにはさまざまな仏様が祀られていた。観音様とその信仰者をお守りするという二十八部衆の面々、子授けや安産の観音様としてあつく信仰されてきた子育て観音など、ざっと見積もっても30体以上。一度にこれだけ多くの仏様をお参りできるとは、なんともありがたい場所だ。二十八部衆が勢揃いのうえ一般に公開されているお寺は、都内でも珍しいんだとか。

人々のあらゆる悩みや苦しみに手を差し伸べてくれる千手観音様が御本尊だけに、お守りの種類も豊富。

京都の清水寺に「見立て」たのはなぜ?

お参りをすませて本堂を出ると、目の前には不忍池を望む開放感あふれる風景が広がる。本堂前が上野の山の斜面に向かってせり出すようになっていて、とても見晴らしがいい。これは京都の清水寺にならって「舞台造り(懸造)」を採用しているからだそうだ。

御本尊も清水寺にゆかりがあるが、建物の造りも同じ。後から寛永寺のご住職に聞いたところによれば、これは偶然ではなく、寛永寺の開山である慈眼大師天海大僧正(1536?〜1643年)が意図したことだという。寛永寺を江戸庶民の祈りの場や憩いの場にもしたいと考えた天海大僧正は、上野の山を比叡山に、不忍池を琵琶湖にという具合に、比叡山と周辺の名所に見立てて寛永寺を形作っていったそうだ。そうした計画のもと、清水観音堂は京都の清水寺に見立てられ、1631(寛永8)年に建立された。当初は今の上野公園内の「摺鉢山」と呼ばれる小さな丘の上にあったが、1694(元禄7)年に現在地に移され、当時の姿を残したまま今日に至るという。上野の山に現存する最古のお堂であり、江戸の大火事も寛永寺一帯が戦場となった上野戦争や太平洋戦争の戦火も免れてきたというから驚きだ。

京都の清水寺に見立てられた清水観音堂だけあって、不忍池方面からお堂へと続く坂も「清水坂」と名付けられた。
上野戦争の様子を描いたもの。右上にある2つの物体は薩摩・長州軍が使用した大砲の弾だという。

江戸っ子気分で月の松からの眺めを楽しみ、願い玉を投げよう

二代目の「月の松」。

舞台正面の真ん中には、歌川広重の浮世絵にも印象的に描かれていた「月の松」が植えられている。初代・月の松は明治時代に台風で失われ、現在あるものは2012年12月に復元された二代目。江戸の植木職人が趣向を凝らし、松の枝を曲げて月をかたどった姿は、当時も粋な江戸っ子の間で話題となったに違いない。舞台から「月の松」越しに不忍池に浮かぶ弁天堂を望むと、同じ光景を江戸の人たちも見ていたのかもしれないと思えて趣がある。一見の価値ありだ。

そして清水観音堂を訪れたら、ぜひ挑戦してほしいのが「願い玉」(500円)だ。願い事をしながら、舞台下にある月の形をした円に向かってお手玉のような玉を投げ、円の上にうまく玉を載せられれば願いが叶うというもの。「清水の舞台から飛び降りる」ということわざがあるが、江戸時代には実際に清水寺の舞台から願掛けとして飛び降りる人がいたらしい。「願い玉」はその史実にちなんで、江戸っ子の遊び心を受け継ぐかのように数年前から始まったそうだ。

チャンスは5回。私も念入りに願いを込めて玉を投げてみたものの、これがなかなか難しい。想像以上に力いっぱい投げないと円にも届かなかった。やはり大事なのは思いきりのよさ。思いっきり清水の舞台から投げることをおすすめする。

獅子が舞いながらおみくじを運んでくれる「獅子舞おみくじ」。
本堂裏にある「秋色桜(しゅうしきざくら)」にちなんだ「しだれ桜みくじ」。

文/岩本恵美 撮影/後藤武浩

清水観音堂

住所:東京都台東区上野公園1-29
拝観時間:9:00〜17:00
URL:http://kiyomizu.kaneiji.jp/

※この記事は2020年2月現在のものです。

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