バリアフリーな上野を楽しもう!上野バリアフリーマップのルート調査に密着

バリアフリーな上野を楽しもう!
上野バリアフリーマップのルート調査に密着

誰もが上野の文化施設や自然を気軽に楽しんでほしい――。そんな思いから生まれたのが、上野文化の杜新構想実行委員会の「上野バリアフリーマップ」。特徴は、坂道の角度や舗装の状態、駅からの推奨ルートなど、詳細な情報を提供していることだ。そのリサーチはどのように行われているのだろう? マップ制作の要となるルートチェックに同行した。

車いす使用者の目線で役立つ情報を提供

「上野バリアフリーマップ」は、車いすの使用者をはじめ、誰もが上野エリアで自由に気兼ねなく行動できるように、情報を提供している地図だ。エレベーターや車いす対応の駐車場、多目的トイレなど、バリアフリー設備の位置を表示するだけでなく、駅から施設まで、どのようなルートをたどると行きやすいかも明示。さらに、階段の有無や凸凹した未舗装の道かどうか、車いすで上ることが可能な角度の坂道かどうかといった情報も提供している。

ミライロの藤田さん(左)と水野さん(右)。

「上野バリアフリーマップ」が大切にしているのは、利用者の目線で役に立つ情報を提供すること。そのために、力を発揮しているのが、ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を手がける「ミライロ」だ。同社は、障害者ならではの視点や経験を発信することで人々の意識や環境を変え、誰もが暮らしやすい社会を目指している。

「上野バリアフリーマップ」の制作を担当しているのは、車いすの使用者であり、ルートや施設の状況をチェックするデザイナーの藤田隆永さんと、藤田さんがキャッチした情報を地図に落とし込むディレクション担当の水野沙優美さん。

藤田さんと水野さんは、どのようにバリアフリーマップに必要な情報を見つけているのか。「上野バリアフリーマップ」内の情報をアップデートするため、東京メトロ銀座線上野広小路駅から東京文化会館までのルートを中心に、JR上野駅のペデストリアンデッキや東京国立博物館の庭園を確認する2人に同行した。

意識しながら歩いてみると、道路の凹凸や段差、傾斜の大きさにあらためて気づかされる。
藤田さんと確認しながら、水野さんがタブレットに注意事項などを記入していく。

目的地まで最短で到着できるルートを探す

「バリアフリーマップで重要な情報の一つは、車いすを並行に保ちながら、目的地まで最短で到着できるルートの提供です。道路の傾斜や障害物の有無、坂道の角度やどれくらいの長さなのか、エレベーターの位置や稼働時間のチェックと注意深く見ていきます。足で歩く場合は気にも止めない傾斜や段差でも、車いすでは障害になり、体力を消耗させてしまうからです」(藤田さん)

歩道を歩きながら、藤田さんたちが念入りにチェックしていたのが横断歩道だ。車道から歩道に上がるときには必ず段差がある。またマンホールがあったり、水はけをよくするための傾斜が強かったり、藤田さんたちと一緒に歩いてみると、これほど道路には凸凹があるのかと驚かされる。

藤田さんたちは、横断歩道を何度か往復し、どの場所を通るのがベストのコースか、写真も撮影しながら、詳細な情報を集めていた。じつは、この写真撮影も重要なのだそう。

横断歩道は重要なチェックポイント。渡りやすいかどうか、どんなところに注意したらいいかを、丹念にチェックする。
上野バリアフリーマップの特徴の一つが、マップに埋め込まれた写真。藤田さんが、要所要所で撮影していく。

「車いすに座った状態と立ち上がった状態では、目線の高さがかなり異なります。エレベーターや改札、施設の入り口への標識など、立った状態では見えても、車いすに座った状態では見えないこともあります。そこで、車いすの高さから撮った写真も活用しながら、目的地に迷わずに到着できるように情報を精査しているのです」(水野さん)

今回の同行で、その言葉がもっともよく現れていたのが、東京メトロ銀座線・上野広小路駅の構内を回っていたときだった。銀座線は東京メトロで最も古い路線のため、バリアフリー設備が充実してきたとはいえ、スムーズに移動するには遠回りしたほうが楽な場合もあり、事前に情報を知っておくに超したことはない。とくに今回、訪問したときは、エレベーターの1基が設置工事中だったこともあり、浅草方面へのホームに向かうときは、「エスカル」という階段昇降機を利用する必要があった。

藤田さんたちは実際に「エスカル」で乗降して天井までの高さや稼働に必要な駅員の数を確認。さらに、時間の余裕があれば、隣の駅まで乗車し、対向のホームを利用すれば、「エスカル」を使わずに移動することも可能という情報も教えてもらっていた。

ユニバーサルデザインで誰もが利用しやすい場所に

駅構内を30分ほどかけてチェックしたあと、最後に向かったのは、東京国立博物館本館北側の庭園。同館のチケットを持っていれば誰でも見学できるが、意外と知られていない穴場的存在だ。訪問した日は、大規模工事のため全面閉鎖中。ここでも藤田さんは車いすに適した傾斜や幅かどうかをチェックし、気づいた点を、案内してくれた東京国立博物館の担当者に伝えていた。

「目的地までのスムーズなルートがわかっていると、もっと積極的に外出しようという気になります。でも、従来の地図や案内図では、そこまで細かい情報は掲載されていません。そこで、私たちが実際に歩いてみることで、より使える情報にブラッシュアップしているのです。また、私たちが気づいたことを駅や施設の方たちに伝えることで、よりよいバリアフリー設備になるメリットもあります。ユニバーサルデザインがもっと広がれば、私のような車いすの使用者だけでなく、ベビーカーを使っていたり、持病があったり、さらにはとくにサポートが必要ではない人でも使いやすい場所になっていきます。そんな情報をこれからも積極的に発信していきたいですね」(藤田さん)

文/角田奈穂子(フィルモアイースト) 撮影/今村拓馬

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